第20話 エレノール領に帰って来ました。
朝起きて服を着替える、ドリュサス男爵の屋敷に滞在して3日目、もうすぐこの屋敷を出発しエレノール領に向かう。
「さて、荷物はまとめ終わったし、そろそろ朝食の時間ですね」
独り言を呟いているとドアをコンコンとノックする音が聞こえた。
「はい、どうぞ」
俺の返事の後にドアが開く。
「失礼いたします、テンリ様おはようございます。朝食の準備が出来ましたのでお呼びしに参りました」
「ありがとうございます、すぐに向かいますね」
「では失礼い致します」
メイドさんが呼びにきたので荷物をアイテムボックスにしまい部屋を出る。そのまま食堂に向かい皆と食事を摂る。
「今日この後に出発してしまうのですね」
ソリュアは寂しそうな顔をしながら呟く。
「ソリュア君、よかったら今度エレノール領に遊びに来てください」
俺はソリュアに笑顔で話しかける。
「今度は俺がエレノールの街を案内しますから」
それを聞きソリュアは笑顔になった。
「はい、楽しみにしていますね」
朝食を済ませた後に俺達は護衛の者達と道順の最終確認をして馬車に乗り込んだ。
「3日間の滞在ありがとうございました」
カロンはドリュサスに礼を述べる。
「いえいえ、こちらこそ無理を言って滞在していただきありがとうございます」
ドリュサスもカロンに礼を述べる。
「テンリ君にはソリュアもお世話になりました」
「いえ、こちらこそ楽しく過ごさせて頂きました、ありがとうございます」
俺はドリュサスに頭を下げソリュアに向き直る。
「ソリュア君もありがとうございました」
「こちらこそ、短い時間でしたが楽しかったです」
俺とソリュアは握手を交わした後に抱き合った。
「ソリュア君、こちらこそ楽しかったです、また機会があれば一緒に遊びに行きましょう」
「はい」
俺とソリュアが別れの挨拶を交わしている時にシャナナと目が合った、この時シャナナは期待の籠った目を向けながら俺とソリュアを見ていたが俺はそれを見なかった事にした。
「それではありがとうございました」
「どうぞお気をつけて」
カロンとドリュサスは最後の挨拶をしている。
「それではソリュア君、また会えるのを楽しみにしていますね」
「はい、またお会いしましょう」
俺もソリュアと別れの挨拶を終えて馬車に乗り込んだ。そしてエレノール領を目指し俺達は移動を開始した。
ドリュサス男爵領を出発した後は何事もなく順調に進み5日程でエレノール領内に入った。途中で村や町などで物資の補給や視察を行いながらさらに2日、ついに都市エレノールに帰ってきた。
「やっと帰ってこれましたね」
俺は外を見ながら小さく呟いた。洗礼の義を受けるためにエレノール領を離れすでに一ヶ月以上が経っている。この旅は俺にとって実りのある体験が出来たと思う、若干、いやかなり濃い経験が積めた。さらには厄介事も持ち帰ってしまったけどそれはそれだ。
馬車は門を潜り街に入る、街は旅に出る前と同じで活気に溢れていた。そのまま道を進んでいき小高い山の上にある屋敷に向かう。
「やっとお屋敷が見えてきたよ、帰ったら早速研究室に行かないと!」
「私はいつもの所でゆっくりお茶をするわ」
「お前達は何を言ってるんだ、屋敷に帰ったら早速仕事を始めるぞ」
カロンの言葉にタリアとカレンは信じられないといった表情をする。
「やっと帰って来たんだよ、今日はゆっくりしてお仕事は明日からにしようよ」
「そうよね、帰ってきたばかりなのだもの、今日はゆっくりして仕事は明日にすべきよね」
長旅を終えてやっと帰って来たのだから今日ぐらいゆっくりしたいと言う母様達の意見は解る。
「一ヶ月以上も屋敷から離れていたんだ、戻ったら早く仕事をしないと皆に迷惑が掛かるだろうに、それに急ぎの内容も在るかもしれん」
しかし皆に迷惑が掛からないように早く仕事を再開したいカロンの言っていることも解る。
「カロン君の意地悪!」
「仕事馬鹿」
「まったくお前達は、はぁ」
カロンは大きな溜め息を吐いた。
俺はそんな三人のやり取りを見ながらふとあることを思いだし呟いた。
「ゲートが使えるなら戻って仕事をする事ができたんじゃ」
「「「・・・あ」」」
三人は呆けた顔のまま固まった。
「あの、大丈夫ですか?」
俺が声をかけると同時にカロンに勢いよく両肩を捕まれ前後に揺さぶられた。
「テンリ!なぜもっと早くにそれを言ってくれなかったんだ!」
「ちょっ、父様、お、落ち着いてください」
「もっと早くに言っておいてくれれば」
「と、父様、い、痛い、です」
「ハッ、テンリ、す、すまない」
正気を取り戻したカロンは急いで肩から手を話した。
「そ、それにしても、父様は気づいてなかったんですね」
「・・・ああ」
「それに母様達も」
「そうね」
「あははは」
カロンは頭を抑えカレンは何故か腕を組んで澄まし顔、タリアは苦笑いをしていた。
「聖都についてからよく陛下がミルさんにゲートを開いてもらって来ていたじゃないですか」
「確かにそうだったな」
「それに俺はカレン母様がゲートを使えるのを知ったのはドリュサス男爵の屋敷でしたし、父様達は以前からカレン母様がゲートを使えるのを知ってたので、てっきり何か理由があってゲートを使った行き来を制限しているのかと」
まさかカロン、カレン、タリアの三人がこんな抜けてたとは思わなかった。
「いろいろありすぎて思考が追いつかなかった」
そのいろいろの原因は俺だった事を思い出しす。
「そ、そうですね、いろいろありすぎましたし、仕方ないですよね」
俺は苦笑いをしながらカロンに答えた。その後屋敷に着き使用人達に迎えられ無事に帰って来たことを喜ばれた。カレンとタリアは文句を言いながらもカロンと共に仕事に向かった。そして俺は久しぶりに自室でお茶を飲みながら読書をしていた。
「今日はゆっくりして明日から身体を動かして鍛練に励む事にしましょう」
その後に街に行っていろいろ見て回るのも良いかもしれない、洗礼の義に行く前はほとんどが屋敷の中だけの生活だったのでエレノールの街並みは聖都の行き帰りに通ったくらいしかわからない、せっかく自分の住んでいる街なのだいろいろ見て知っておくのは大事なことだろう。それにソリュアが来たときにちゃんと案内が出来るようになっておかなくては。
「さて、明日はどんな1日になるのでしょうか」
俺は空を見ながらそんな事を呟くのだった。
その翌日、俺は朝早く起きて動きやすい服に着替え外に出ていた。軽くストレッチをした後に屋敷の周りを一週した後セバスに声をかけられた。
「ほほっ、テンリ様おはようございます、精が出ますな」
「おはようございます、ちょうど良いところに来てくれました」
「ほほっ、どうかなさいましたか?」
「今日から俺に修行をつけてくれませんか」
「ほほっ、よろしいですよ」
「ホントですか、ありがとうございます」
セバスは楽しそうに頷いてくれた。
「ほほっ、しかし私は厳しいですよ、ちゃんとついてこられますかな?」
「頑張ります、お願いします」
「ほほっ、良いお返事です」
セバスは笑いながらストレッチを始める。
「ほほっ、では今日は初日なので軽く動く事にしましょう」
「わかりました」
「ほほっ、では私が逃げるので捕まえてください、タッチすればテンリ様の勝ち、逃げ切れば私の勝ちにしましょう、時間は、一時間程にしましょうか」
「すぐに捕まえて見せます」
「ほほっ、頑張ってください、ではいつでもどうぞ」
俺はセバスの言葉が終わると同時にまっすぐに突っ込んだ。
「ほほっ、シュレフェット迷宮で戦闘を見ていましたがやはり凄まじいですね」
セバスは褒めながらもあっさり避ける。
「絶対に捕まえて見せますからね!」
「ほほっ、その意気です」
それから一時間全力でセバスを捕まえるために動いたが全て紙一重で避けられた。
「ほほっ、なかなか良い動きでした」
「はぁはぁ、ふぅ、ぜ、全然、かすりもしなかった」
俺は地面に大の字で寝転がりながら息を切らしていた。
「ほほっ、今のは弟子入りした者達に最初にした修行ですよ」
「そうなんですか」
セバスは笑顔のまま頷く。
「まさかタッチするだけなのにこんなに大変とは思わなかった」
「ほほっ、皆さん最初は舐めてかかりますが気づけば本気になってますね」
「どれくらいでタッチ出来るんですか?」
「ほほっ、そうですね、平均で1年ぐらいでしょうか」
「そんなにかかるんですか!」
「ほほっ、最短の者で半年程でしたね」
「そうですか、ちなみにその人はどんな人なんですか」
「ほほっ、テンリ様も会っている方ですよ」
「俺も会っているって事は、父様ですか?」
「ほほっ、外れです」
「ん~、俺も知っててセバスに弟子入りしてた人は、あ、ひょっとしてアガレス様ですか?」
「ほほっ、正解です」
今度は当たった、そもそも俺が会っていてセバスに弟子入りしていたのはカロン、ロレンス、アガレス、ミル、そしてタリアの5人だけだ、実際は何百人といるらしいのだが会った事があるのは先に名前を上げた者達だけだ。その中で身体能力に優れているのは獣人族のアガレスだ。しかしそれでも半年も掛かったのか。
俺は息を整えて起き上がりセバスと明日から同じ時間で修行をつけてもらう約束をした。
「ほほっ、そろそろ朝食のお時間ですね」
「着替えて食堂に向かいますね」
俺とセバスは修行を終えて屋敷に戻って行った。
20話までいきました。
次は街の探索の予定です。




