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碩学の無能力者  作者: 髙津 央
第11章.決着

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82.警察官

 「ボク、質問……大丈夫かな?」

 警官が、俺には小さい子に言うような口調で、質問してきた。何とか首を縦に動かすと、父ちゃんと同じ質問をされた。


 「………………」

 口が少し開いただけで、声が出ない。


 証言しなきゃいけないのに。

 黙ってたら、オカンはすぐ家に帰ってきて、俺達、殺されるのに。


 何で肝心な時に限って、声が出ないんだよ。

 何か……何か、言わなきゃ……早く……


 えーっと……何を見たんだっけ?

 さっき、何が……

 俺は愕然(がくぜん)とした。


 記憶が……消えた? 


 頭の中が真っ白だ。

 たった今、目の前で起きたことが全く思い出せない。


 ついさっきなのに……?


 涙だけがだらだら流れ、半開きの口の中にしょっぱい味が流れ込む。


 「ごめんな。怖かったもんな。もう少し落ち着いたら、お話ししてくれる?」

 「ね……ねぇちゃ……」

 「うん。お姉ちゃんは無事だから、大丈夫だよ」

 「録音……レコーダ……ICの奴、姉ちゃん、録ってる」


 俺、何でこんな片言になってんだよ。涙止まんねーし。


 警官が姉ちゃんの方を向く。

 姉ちゃんは、ポケットからICレコーダを出そうとして、ジタバタしていた。引っ掛かったらしい。


 「これ! ここ! さっきからずっとONで……」

 姉ちゃんは、(ようや)く引っ張り出せたICレコーダを震える手で高く掲げて言った。


 家の前に野次馬が集まっている。

 近所の人が、別の警官の質問に答えていた。


 パトカーで移動して、警察署での事情聴取には、ちゃんと答えられた。

 会議室っぽい場所で、刑事さんが「子供だから特別。みんなには内緒な」と、(おご)ってくれた自販機のジュースを飲んで、落ち着いたからかもしれない。


 今日の出来事も、オカンに普段からされていることも、証拠を集めていることも、ちゃんと話せた。


 刑事さんによると、初動でこれだけ警官が来たのは、日頃から近所の人たちが何人も、オカンのことで警察署に相談していたのと、オカンが以前にも警察沙汰を起こしていたのと、今日も、姉ちゃんの悲鳴で、近所の人たちが通報してくれたかららしい。


 お礼を言いたいが、守秘義務があるから、誰が通報したかは、教えてもらえなかった。


 「最後に聞くけど、お母さんに早く帰ってきて欲しい?」


 「嫌です。帰ってきたら、今度こそ俺たち殺されます。二度と会いたくありません。これ、他人だったら、殺人未遂の被害者と加害者ですよね? 何で親子だったら、また加害者と一緒に住まなきゃいけないんですか? 通り魔とか、他人だったら、こんなの絶対あり得ないでしょう? オカンが帰って来るんなら、俺、家出します。家出して、オカンの居ない場所に逃げます。探さないで下さい」

 言葉も涙も止まらなかった。


 恐怖も悲しみもなく、口調は他人事(ひとごと)のように淡々と、涙も、ただ流れるだけだ。

 自分でも、感情が冷め過ぎてて、異常だと思う。


 「……うん。そうだな。じゃあ……お母さんとお兄ちゃんは、最低二、三日はお家に帰れないから……その間、お父さんに、児童相談所でこれからどうするか、相談してもらおう」


 クソ兄貴は、救急車の中で目を覚ましたものの、化け物がどうとか、意味不明なことを口走って、錯乱状態だったらしい。

 任意で尿検査をした結果、イケナイお薬を検出。逮捕されたそうだ。


 二度と帰ってこなくていい。

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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