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碩学の無能力者  作者: 髙津 央
第11章.決着

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81.化け物

 包丁を抜こうとしていたオカンが、ヒッと息を呑んで固まる。

 オカンに近付こうとしたクソ兄貴が、床のカップを踏んで後ろ向けにひっくり返った。


 ……デーレヴォ……だよな?


 台所に現れたのは、いつもの繊細な美少女ではなく、魔物だった。


 キレイだ……けど、怖い。


 上半身はデーレヴォだけど、背中には蝙蝠(コウモリ)のような羽が生え、頭から腕環と同じ銀の枝が生えている。下半身は銀鱗の蛇。

 もらった服は着ていない。そして、髪と瞳だけでなく肌まで金属光沢のある銀色だった。


 魔物のデーレヴォが、ボディに一発喰らわせると、オカンは包丁をがっちり握ったまま、倒れて動かなくなった。


 ……死んでない、よな? 


 父ちゃんは驚いて固まっている。

 姉ちゃんは、床に倒れたオカンを(また)いで、台所の入口横にある電話に飛びついた。


 一一〇番


 姉ちゃんが半狂乱で通報している間に、俺は小声で、デーレヴォに腕環に戻るように頼んだ。

 姿は違っても、やっぱりデーレヴォだった。

 やさしい微笑みを残して(もや)になり、銀の魔物が消える。


 クソ兄貴は、頭でもぶつけたのか、動かなかった。


 オカンは手が硬直したのか、包丁を握ったまま救急搬送された。クソ兄貴も念の為、病院に運ばれた。


 父ちゃんは、警察が来る前に、ちゃっかりDNAサンプルとして、二人の頬の内側の粘膜を採取していた。


 姉ちゃんが、到着した警官の一人にしがみついて、号泣している。こんなに取り乱した姉ちゃんを見るのは、初めてだ。

 「お巡りさん! 助けてッ! 包丁ッ! お母さんに殺される! 包丁が……!」

 「大丈夫、もう大丈夫だから、落ち着いて」


 「包丁ッ! 包丁なの! 殺されるッ! お母さん……私、殺すって! 包丁! ガッって……」

 「うん。もう大丈夫だからね、お母さん連れてったから、今、居ないからね」

 年配の警官は、泣き叫ぶ姉ちゃんの背中をトントン叩きながら、落ち着いた声で言った。


 俺は、自分でもよくわからない。

 何故かわからないが、涙が止まらない。でも声は出ない。

 泣いているのかどうかも……わからない。ただ、涙と鼻水だけが、だらだらと流れた。


 この後、どうすればいいのかも、わからない。


 父ちゃんは、そんな俺を抱きしめて、頭を撫で続けている。父ちゃんの肩は、俺の涙でぐっしょり濡れていた。


 何だろう? さっきは割と冷静に動けてたのに。

 俺、何で涙……出てるんだろう?

 泣いてる……? 涙は出てるけど……

 別に悲しいとか痛いとか、そういうんじゃない。


 姉ちゃんが泣き叫ぶ声をBGMに、別の警官が父ちゃんに質問する。父ちゃんは、さっきと同じ冷静な声で答える。


 デーレヴォのことは言わず、父ちゃんが自分でオカンを殴り倒したことにしていた。

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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