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碩学の無能力者  作者: 髙津 央
第11章.決着

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80.人殺し

 「チッ! まぁいいわ。家のローンと借金で首が回らなくなったあんたなんか、こっちから願い下げよ。離婚してあげるから、積立貯金全部と慰謝料と養育費三人分、寄越しなさい。創歌瑠(そうる)迷露茶(めろでぃ)鯉澄(りずむ)! 勿論(もちろん)、ママと一緒に暮らすわよね?」


 姉ちゃんが立ち上がって、俺の肩に手を置いて言った。

 「私とこの子は、病院で取り違えられた他所の子なんでしょ? お母さんいつも言ってるじゃない。私たちみたいな不細工な子は、産んだ覚えないし、要らないって」


 「それは(しつけ)で言っただけじゃない! 今まで育ててやった恩を忘れたの!?」

 「躾? 自分の機嫌悪い時、私とこの子に当たり散らして、存在を全否定するのが躾なの? 小さい頃は、お祖父ちゃんたちが面倒見てくれてたし、お祖父ちゃんたちが引越してからは、家のこと全部、私とこの子がしてるじゃない。恩なんて……」


 「チッ! ブスが! ごちゃごちゃと!」

 オカンがコーヒーカップを投げつける。

 姉ちゃんは、慣れた動きで避け、カップはカウンターキッチンの角に当たって砕けた。


 「お前、何てことを!」

 父ちゃんとクソ兄貴が、同時に立ち上がる。

 兄貴の(ひじ)が当たって、カップが落ちた。こちらは割れず、床に珈琲をぶちまけた。


 あーあ……またこの後片付け、俺らかよ。やらかした奴が片付けろよな。


 オカンは、鬼の形相でカウンターキッチンの調理スペースに回り込む。

 姉ちゃんが息を呑んだ。


 こっちに戻ってきたオカンの手には、不吉に輝く包丁があった。

 今まで、どんなにキレてても、打撃系だったのに、とうとう刃物を持ち出した。


 「笑美華! 何をする気だッ? やめないか!」

 「うるさい! ブスの癖に口応えしやがって!」

 父ちゃんが鋭い声で制止する。オカンは全く聞いていない。


 ってういか、怒りのポイントそこなの?


 斜め上のキレ方に思考が麻痺した。何もかもが、スローモーションに見える。

 オカンが、父ちゃんを突き飛ばし、テーブルを回り込む。

 姉ちゃんが、俺の肩から手を離して後退する。

 父ちゃんが立ち上がり、オカンを取り押さえようと、手を伸ばす。


 俺は腕環をつけながら、合言葉を唱えた。

 姉ちゃんの悲鳴が、俺の声に重なる。


 「いやぁあああぁああぁああ! 人殺しー!」

 「アルセナール……デーレヴォ! 助けて!」


 オカンが包丁を腰溜(こしだ)めに構えて突っ込んできた。

 見えない盾にぶつかり、勢いよく刃先が()れる。

 ガッと音を立てて、包丁がテーブルの縁に食い込んだ。


 腕環が青い光を放ち、デーレヴォが現れる。

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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