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碩学の無能力者  作者: 髙津 央
10章.碩学の無能力者

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73.案ずる

 作戦開始十一日目の木曜日。明日から四連休だ。

 俺たちは何食わぬ顔で登校した。

 父ちゃんは、もう帝都に着いただろうか。


 校門で網干(あぼし)さんに話し掛けられた。

 「おはよう。もう来て大丈夫なの? 最近ずっと顔色悪かったし、無理しちゃダメよ。あ、これは副委員長としてのアレで、個人的な心配じゃないから。本気で心配してんの、須磨(すま)さんと塩屋(しおや)さんと、委員長くらいじゃないかな?」


 網干さんは(ともえ)が眼中にないらしい。でも、俺が倒れた理由を知っているのは、巴だけだ。

 軽くお礼とお詫びを言って、教室に入った。


 赤穂(あこう)と巴、西代(にしだい)班長はまだ来ていない。

 席に鞄を置くと、塩屋さんが来て、鞄を持ったまま話し掛けてきた。


 「友田君、おはよう。もう大丈夫? 無理しないでね。具合悪くなったら、私に言ってね。私、保健委員だから」

 「うん。みんなに迷惑掛けちゃって、ごめん。自分でも、まさかあんな大事(おおごと)になると思ってなくて、大丈夫だと思って、甘く見てた。以後、気を付けます」


 「あ、高砂(たかさご)君、風邪じゃなくって、インフルエンザだったって。(しばら)く来られないって」

 「えっ? インフルエンザ? あれって、冬になるもんじゃないの」

 「少ないけど、他の季節でも、ずーっと患者はいるんだって」

 「そうなんだ。気を付けるよ」


 「私、保健委員だから、何かあったら、言ってね」

 「うん、ありがとう」

 塩屋さんは、やけに「保健委員」を強調して自分の席に着いた。

 俺は、女子との会話最長記録を更新した。


 あれっ? そう言えばさっき、須磨春花(すまはるか)が本気で心配してるって言ってなかったか?


 さっき、軽く流した網干さんの話を思い出して、困惑する。

 一番前の席に座っている須磨春花の後ろ姿を見た。肩より少し長い艶のある黒髪。勿論、後ろ姿だから、顔も表情もわからない。


 須磨家と友田家は、隣り合っているが、弁護士立会いの許で不可侵・不接触の念書を交わした。

 加害者であるウチがこれを破ったら、須磨家に追加の迷惑料を払う約束だ。


 被害者家族の須磨春花が、加害者家族である俺を本気で心配してるって、どういうことだよ。

 一度も喋ったことないし、俺は須磨春花を直視すらしていない。

 全力で避けてる。


 須磨春花も、同じじゃないのか?

 何で……? 網干さんの勘違い?


 今日一日、夜眠るまで、須磨春花の事が頭を離れなかった。

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
【関連が強い話】
野茨の血族」 巴君のその後。
虚ろな器」 高校生になった友田君が登場。
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