73.案ずる
作戦開始十一日目の木曜日。明日から四連休だ。
俺たちは何食わぬ顔で登校した。
父ちゃんは、もう帝都に着いただろうか。
校門で網干さんに話し掛けられた。
「おはよう。もう来て大丈夫なの? 最近ずっと顔色悪かったし、無理しちゃダメよ。あ、これは副委員長としてのアレで、個人的な心配じゃないから。本気で心配してんの、須磨さんと塩屋さんと、委員長くらいじゃないかな?」
網干さんは巴が眼中にないらしい。でも、俺が倒れた理由を知っているのは、巴だけだ。
軽くお礼とお詫びを言って、教室に入った。
赤穂と巴、西代班長はまだ来ていない。
席に鞄を置くと、塩屋さんが来て、鞄を持ったまま話し掛けてきた。
「友田君、おはよう。もう大丈夫? 無理しないでね。具合悪くなったら、私に言ってね。私、保健委員だから」
「うん。みんなに迷惑掛けちゃって、ごめん。自分でも、まさかあんな大事になると思ってなくて、大丈夫だと思って、甘く見てた。以後、気を付けます」
「あ、高砂君、風邪じゃなくって、インフルエンザだったって。暫く来られないって」
「えっ? インフルエンザ? あれって、冬になるもんじゃないの」
「少ないけど、他の季節でも、ずーっと患者はいるんだって」
「そうなんだ。気を付けるよ」
「私、保健委員だから、何かあったら、言ってね」
「うん、ありがとう」
塩屋さんは、やけに「保健委員」を強調して自分の席に着いた。
俺は、女子との会話最長記録を更新した。
あれっ? そう言えばさっき、須磨春花が本気で心配してるって言ってなかったか?
さっき、軽く流した網干さんの話を思い出して、困惑する。
一番前の席に座っている須磨春花の後ろ姿を見た。肩より少し長い艶のある黒髪。勿論、後ろ姿だから、顔も表情もわからない。
須磨家と友田家は、隣り合っているが、弁護士立会いの許で不可侵・不接触の念書を交わした。
加害者であるウチがこれを破ったら、須磨家に追加の迷惑料を払う約束だ。
被害者家族の須磨春花が、加害者家族である俺を本気で心配してるって、どういうことだよ。
一度も喋ったことないし、俺は須磨春花を直視すらしていない。
全力で避けてる。
須磨春花も、同じじゃないのか?
何で……? 網干さんの勘違い?
今日一日、夜眠るまで、須磨春花の事が頭を離れなかった。




