74.束の間
作戦開始十二日目、四連休初日の金曜日。
オカンは朝からどこかに行った。
クソ兄貴は昨夜から帰っていない。
店が休みになったので、姉ちゃんも連休中、バイトが休みになった。
姉ちゃんと二人で午前中に家事を終わらせた。
縁側でお茶を飲んでほっこりする。
物干し台があるだけの狭い庭。花も何もない。干したばかりの洗濯物が、風で揺れるのをぼんやり眺める。
敵がいつ帰ってくるかわからないので、完全に気を緩めることはできないが、平和だった。
姉ちゃんは「お菓子がないなら自分で作ればいいのよ」と、クッキーを作っている。
小麦粉、砂糖、卵、牛乳、バター。全部家にある。少しなら使ってもバレない。
お菓子を買うお金がなくても、作り方を知っていて、材料があれば、自分で作って食べられる。
誰かが分けてくれる幸運を待たなくてもいいんだ。
俺は台所に行って、洗い物を手伝った。
窓を全開にして換気扇を回し、クッキーの甘い匂いを家から追い出す。
焼き上がったクッキーを自室に持って上がり、一階には消臭スプレーを撒いた。
姉ちゃんと二人でクッキーを食べながら、役に立つリンク集を読み返す。
「他にもあるから追加しといたよ」
姉ちゃんはそう言って、一昨日のメール「役に立つリンク集その2」を開いた。
DNA鑑定をしている会社の料金表・所要日数表。
家庭裁判所の「親子関係不存在確認」と「名の変更許可申立」手続きのページ。
法令データベースの「児童虐待の防止等に関する法律」のページ。
「私は十八歳になったから、この法律の保護からは外れて……あんたを守る側になったから」
守る側ったって、姉ちゃんは、まだ、高校生だ。
まだ、就職もしてない。
まだ、引越しもしていない。
でも、もう法律は、姉ちゃんを守ってくれないんだ。
同じ家の同じ姉弟で、同じ敵と戦ってるのに。
「それから、私が記録をつけるきっかけになったのは、このサイト」
VS毒親! ~対策・対抗マニュアル~
子供を愛玩用人形、搾取用奴隷、サンドバッグにする名ばかりの親から離れて、人間らしく普通に……平穏に暮らす為の参考情報が、詳しく書いてあった。
wiki形式で、子供の害になる親の特徴をまとめたテンプレ。
生まれた時から暴力や暴言で支配されてきた子供が陥る「学習性無力感」などの心理状態、カウンセリングの受け方、精神の回復段階。
親の支配からの脱出方法。
各種手続き、公的機関や支援団体のリンク集などが、詳しくまとめてある。
相談掲示板へのリンクを開くと、たくさんの相談や体験談が書き込まれていた。




