71.不可視
魔法戦士は、もう一方の手を腕環に添えて、小声で何か呟いた。
「魔力で使用する場合は、呼ばない限り出てこないようですね」
魔法戦士に言われて、初めて気付いた。
俺が体力モードで使った時は、着けただけで出て来たんだった。それに、もう何日も、デーレヴォに会っていない。
「腕環本体に見えない盾の術を掛けました。合言葉を言えば、一度だけ攻撃を防ぐ見えない盾が展開します。大きさは、腕環を中心とした……この机の天板程度で、形は円形です」
ベッドの脇に置かれた丸テーブルは、開いた折り畳み傘より一回り小さい。
「合言葉は、この腕環の動力を、体力から魔力に切り替える言葉と、同じにしました」
俺が魔法戦士の説明に頷くと、先生は、ぐずぐず言って甘える黒猫を撫でながら、釘を刺した。
「今夜は病み上がりだから、腕環を使わずに寝て、明日以降も使い過ぎないように」
巴の父ちゃんが、車で公園の東口まで送ってくれた。
車内では、他愛ない世間話をしてくれて、かなり緊張がほぐれた。
他所の家には既に灯が点り、どこからかカレーの匂いも漂ってきた。風呂場で反響する子供の楽しそうな声が、通りに漏れ聞こえてくる。
犬の散歩、ジョギング、塾や学校や買い物、仕事から帰る人たちとすれ違う。
みんな、それぞれ帰る家がある。
ウチみたいに、家族が敵で家庭が戦場って、他にもあるのかな?
あるから、探偵とか弁護士とか裁判所とか制度があるんだよな。
我が家には、まだ灯が点っていなかった。
自室に戻り、腕環を鞄の底に隠す。




