70.充魔力
黒江さんが、腕環を睨んでいる。怨念がこもっていそうな、凄まじい形相だ。
……俺、今日はまだ、黒江さんに何も言ってないよな?
先生は、何語かわからない言葉で、警備のお姉さんに話し掛けた。魔法戦士の警備員は、同じ響きの言葉で答える。
腕環のルビーは体力、サファイアは魔力の充電池。
俺の時、体力モードのルビーは、弱々しく光るだけだった。
先生が魔力モードで着けたら、サファイアは眩しいくらい、強く輝いている。
俺が弱過ぎるのか、先生が凄いのか。
基準がわからないけど、やっぱ、俺……なんだろうなぁ……
「あれっ? 黒江どうしたの? 何怒ってるの?」
「わ……私と言う者がありながらッ……ごッ……ご主人様はッ……そんな物を……」
後は嗚咽で言葉にならなかった。
執事形態の使い魔が、肩を震わせ、大粒の涙を零す。
「えッ? ヤキモチ焼いてるの? ちょっとの間だけだよ? それでもイヤなの?」
魔法使いの先生が、びっくりして小さい女の子みたいな可愛い声で、問い掛ける。
五十代くらいの渋いおっさん執事は、野太い声で、幼児のようにしゃくりあげて泣きながら、俺と腕環を交互に指差して頷いた。
「だッだって、えっえっ……ごッご主人さば……うっうっ……うぇあぁあぁあぁあ……」
えっ? 俺が悪いの?
……まぁ俺が体力のない貧弱な坊やなのが、原因だけど……
巴親子と魔法戦士は、横や下を向いて肩を震わせ、必死で笑いを堪えている。
「あー……はいはい。クロ、おいで。だっこしよう」
先生が腕環を外しながら言った。
俺の手に帰ってきても、サファイアの輝きは消えない。
黒猫になった使い魔は、先生の腕に飛び込んで、すりすりゴロゴロ甘え始めた。
「よしよし。クロが一番好きだし大事だよ。……何? ちょっとでもダメだったの。怒ってるの? ……あーハイハイ。クロはヤキモチ焼きだなぁ、もー」
先生が、小さい子をあやすように言って、黒猫の背中をトントン叩く。
元はあんなでかい悪魔なのに、メンタル弱過ぎだし、甘え過ぎだろう……
「次は私に貸して下さい」
魔法戦士が差し出した手に、腕環を乗せる。魔法戦士が着けても、サファイアが輝いたが、先生程、強い光ではなかった。でも、俺のルビーの光よりも、ずっと強い輝きだ。
自分の弱さを改めて思い知らされて、絶望的な気分になる。




