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碩学の無能力者  作者: 髙津 央
10章.碩学の無能力者

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70.充魔力

 黒江さんが、腕環を睨んでいる。怨念がこもっていそうな、凄まじい形相だ。


 ……俺、今日はまだ、黒江さんに何も言ってないよな?


 先生は、何語かわからない言葉で、警備のお姉さんに話し掛けた。魔法戦士の警備員は、同じ響きの言葉で答える。


 腕環のルビーは体力、サファイアは魔力の充電池。


 俺の時、体力モードのルビーは、弱々しく光るだけだった。

 先生が魔力モードで着けたら、サファイアは眩しいくらい、強く輝いている。

 俺が弱過ぎるのか、先生が凄いのか。


 基準がわからないけど、やっぱ、俺……なんだろうなぁ……


 「あれっ? 黒江どうしたの? 何怒ってるの?」

 「わ……私と言う者がありながらッ……ごッ……ご主人様はッ……そんな物を……」

 後は嗚咽で言葉にならなかった。

 執事形態の使い魔が、肩を震わせ、大粒の涙を零す。


 「えッ? ヤキモチ焼いてるの? ちょっとの間だけだよ? それでもイヤなの?」

 魔法使いの先生が、びっくりして小さい女の子みたいな可愛い声で、問い掛ける。


 五十代くらいの渋いおっさん執事は、野太い声で、幼児のようにしゃくりあげて泣きながら、俺と腕環を交互に指差して頷いた。

 「だッだって、えっえっ……ごッご主人さば……うっうっ……うぇあぁあぁあぁあ……」


 えっ? 俺が悪いの?

 ……まぁ俺が体力のない貧弱な坊やなのが、原因だけど……


 巴親子と魔法戦士は、横や下を向いて肩を震わせ、必死で笑いを堪えている。


 「あー……はいはい。クロ、おいで。だっこしよう」

 先生が腕環を外しながら言った。


 俺の手に帰ってきても、サファイアの輝きは消えない。


 黒猫になった使い魔は、先生の腕に飛び込んで、すりすりゴロゴロ甘え始めた。

 「よしよし。クロが一番好きだし大事だよ。……何? ちょっとでもダメだったの。怒ってるの? ……あーハイハイ。クロはヤキモチ焼きだなぁ、もー」

 先生が、小さい子をあやすように言って、黒猫の背中をトントン叩く。


 元はあんなでかい悪魔なのに、メンタル弱過ぎだし、甘え過ぎだろう……


 「次は私に貸して下さい」

 魔法戦士が差し出した手に、腕環を乗せる。魔法戦士が着けても、サファイアが輝いたが、先生程、強い光ではなかった。でも、俺のルビーの光よりも、ずっと強い輝きだ。


 自分の弱さを改めて思い知らされて、絶望的な気分になる。

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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