67.親戚宅
特に異常はなく、翌朝退院できた。
今日は作戦開始十日目の水曜……だと思う。
迎えに来たのはオカンではなく、姉ちゃんに頼まれた愛子叔母さんだった。叔母さんは車を運転しながら深刻な顔で言った。
「詳しい話はウチでするから、今日は学校休んでね」
有無を言わせない雰囲気で、それきり無言になる。
叔母さんの家では、祖父ちゃんだけが待っていた。叔父さんは仕事、従姉兄たちは大学だ。
「体はもうすっかりいいのか?」
「うん。心配掛けて、ごめん」
卓袱台の上には、分厚いA4封筒がある。
叔母さんがお茶とお菓子を持って来て座った。
「証拠の複製を預かった。寿一には、もう郵送したそうだ。聞いたか?」
「うん、速達だから、今頃、もう着いてるんじゃないかなって言ってた」
「お姉ちゃんに『お父さんに任せて知らんぷりして、もし何かあったら協力して欲しい』と言われたが、本当に大丈夫なのか? そもそも、なんでもっと早く言わんのだ?」
オカン以外の身内は、誰も俺たちを名前で呼ばない。
「だって、ここ遠いし、迷惑掛けたくないし……」
自宅からここまで、電車で一時間くらい掛かる。交通費も痛い。
それに何より、祖父ちゃんたちにこれ以上迷惑を掛けたくなかった。
「迷惑だなんて水臭い。こんなことなら、お父さんと一緒に、あんたたちも引き取ればよかった。ごめんね」
「いいよいいよ。叔母さん、子供四人もいたら大変だし、オカンって殆ど家に居ないし」
「そうみたいね。昨日も、学校からお家に電話があった時に居なくて、お姉ちゃんの学校に連絡が行って、お姉ちゃんからウチに連絡が来たのよ」
留守だったのは好都合だ。
「オカンには入院のこと、内緒にして欲しいんだ。『恥かかせやがって』ってキレるから」
祖父ちゃんと叔母さんは、顔を見合わせた。
「もう家に帰らないで、ウチの子になる?」
「ん~……家に帰るよ」
「遠慮しなくていいのよ?」
「遠慮じゃなくって、メールチェックとか、やること色々あるし」
俺が居たら、ここがオカンに襲撃される。
「そう……じゃあ、危なくなったら逃げて来て。夜中でも遠慮しないで。そうだ、これ、タクシー代」
叔母さんはそう言って、俺の手に壱萬円札を握らせた。
困惑する俺に、二人で畳みかける。
「盗られないように隠して、ね。生きていたら、いつか幸せになれるから」
「寿一が決着を付けるまでの辛抱だ。それまでは何としても生き延びるんだ」
「……わかった。ありがとう」
俺は壱萬円札を生徒手帳に挟んで、ブレザーのポケットに仕舞った。
昼ご飯とおやつをご馳走になって、夕方、叔母さんが車で送ってくれた。




