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碩学の無能力者  作者: 髙津 央
第09章.援軍

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67.親戚宅

 特に異常はなく、翌朝退院できた。

 今日は作戦開始十日目の水曜……だと思う。


 迎えに来たのはオカンではなく、姉ちゃんに頼まれた愛子叔母さんだった。叔母さんは車を運転しながら深刻な顔で言った。

 「詳しい話はウチでするから、今日は学校休んでね」

 有無を言わせない雰囲気で、それきり無言になる。


 叔母さんの家では、祖父ちゃんだけが待っていた。叔父さんは仕事、従姉兄(いとこ)たちは大学だ。

 「体はもうすっかりいいのか?」

 「うん。心配掛けて、ごめん」

 卓袱台(ちゃぶだい)の上には、分厚いA4封筒がある。


 叔母さんがお茶とお菓子を持って来て座った。

 「証拠の複製を預かった。寿一(ひさかず)には、もう郵送したそうだ。聞いたか?」

 「うん、速達だから、今頃、もう着いてるんじゃないかなって言ってた」


 「お姉ちゃんに『お父さんに任せて知らんぷりして、もし何かあったら協力して欲しい』と言われたが、本当に大丈夫なのか? そもそも、なんでもっと早く言わんのだ?」

 オカン以外の身内は、誰も俺たちを名前で呼ばない。


 「だって、ここ遠いし、迷惑掛けたくないし……」

 自宅からここまで、電車で一時間くらい掛かる。交通費も痛い。

 それに何より、祖父ちゃんたちにこれ以上迷惑を掛けたくなかった。


 「迷惑だなんて水臭い。こんなことなら、お父さんと一緒に、あんたたちも引き取ればよかった。ごめんね」

 「いいよいいよ。叔母さん、子供四人もいたら大変だし、オカンって殆ど家に居ないし」


 「そうみたいね。昨日も、学校からお家に電話があった時に居なくて、お姉ちゃんの学校に連絡が行って、お姉ちゃんからウチに連絡が来たのよ」

 留守だったのは好都合だ。


 「オカンには入院のこと、内緒にして欲しいんだ。『恥かかせやがって』ってキレるから」

 祖父ちゃんと叔母さんは、顔を見合わせた。


 「もう家に帰らないで、ウチの子になる?」

 「ん~……家に帰るよ」

 「遠慮しなくていいのよ?」

 「遠慮じゃなくって、メールチェックとか、やること色々あるし」

 俺が居たら、ここがオカンに襲撃される。


 「そう……じゃあ、危なくなったら逃げて来て。夜中でも遠慮しないで。そうだ、これ、タクシー代」

 叔母さんはそう言って、俺の手に壱萬円札を握らせた。


 困惑する俺に、二人で畳みかける。

 「盗られないように隠して、ね。生きていたら、いつか幸せになれるから」

 「寿一(ひさかず)が決着を付けるまでの辛抱だ。それまでは何としても生き延びるんだ」

 「……わかった。ありがとう」

 俺は壱萬円札を生徒手帳に挟んで、ブレザーのポケットに仕舞った。


 昼ご飯とおやつをご馳走になって、夕方、叔母さんが車で送ってくれた。

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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