66.搬送先
チャイムが鳴った。
「オイ、どうした?」
国語の板宿先生の声が近付いてくる。
赤穂がてきぱき返事をした。
「友田君が貧血起こしたみたいです。委員長の俺と巴君で保健室に連れて行きます」
「そうか。そーっといくぞ。足持ってくれ」
頭のすぐ傍で先生の声がして、腕の付け根と足首を掴まれた。体が浮いて横に移動する。
「担架とか、大袈裟だよな」
「委員長がおんぶしてやればよかったんじゃね?」
「大袈裟なもんか。気を失ってる奴は、自力でしがみつけないから、おんぶはロープとかで固定しない限り、後頭部強打の恐れがある。だっこも、君らの体力と体格で保健室まで運ぶのは、階段が危ない。それに、倒れた時に頭を打っているかもしれないから、なるべく頭を動かさないように運ばないと、危険だ。赤穂の判断は正しい」
誰かが小声で言った無責任発言に、先生が少し厳しい口調で説明した。
体が動かないだけで意識はあるから、会話は全部聞こえている。
「巴はいいぞ。赤穂と行く。教科書の十二から二十一ページを読んで自習! ……赤穂、行くぞ」
先生の声と同時に、簡易担架が浮いた。
白い天井、消毒薬の匂い。
横を向くと、知らない部屋に高校の制服を着た姉ちゃんが座っていた。
「気が付いた? あんた、学校で倒れて、病院に運ばれたの。無理させて……ごめん」
姉ちゃんは涙声で俺の手を握った。
保健室に運ばれている途中で、本格的に気絶したらしい。
「姉ちゃんのせいじゃない。オカンのせいなんだから、謝らなくていい」
「うん。でも、ごめんね。証拠……今朝、中央郵便局から速達で送ったから、明日には着く」
姉ちゃんが、声を潜めて言った。
思わず跳ね起き、両手を握りあって激しく振った。
「もう面会時間終わるから帰るけど、後のことは心配しないで」
「あ……病院代は?」
「叔母さんが立て替えてくれた。学校の保険とかで、後で戻ってくるみたいだし、あんたはそんな心配しなくていいからね」
「姉ちゃん、誕生日おめでとう。誕生日なのにこんな……」
「そんなのいいから。あんたが無事でいてくれるだけで嬉しいから、元気になってね」
「……うん」




