65.力尽く
作戦開始から九日目の火曜。
寝過ぎで背中と節々が痛い。手足に力が入らない。
姉ちゃんが買い足してくれた栄養剤を飲んで、半分寝ながら朝食を食べた。オカンとクソ兄貴は、まだ寝ているらしい。
だるい体を無理矢理動かし、登校する。
二時間目終了後の休み時間、チャイムと同時に机に突っ伏した俺の横に、誰かが立った。
「友田君、大丈夫?」
忘れられない細く儚げな声。顔を上げなくてもわかる……塩屋さんだ。
緊張で体が固まる。
「あの、体調すごく悪いみたいだし、保健室、行く?」
どうしたもんか……
単なる過労だから、寝てれば回復する。病気じゃないんだ。
「さ、最近、朝晩の寒暖差で体調崩す人多いんだって。ほら、高砂君も休んじゃってるし……えっと、私も保健委員だから、あ……あの、ホント大丈夫? 保健室まで歩ける?」
高砂……? あぁ、男子の保健委員。
顔を上げ、塩屋さんの方を向く。
「えっ!? ちょっと、ホント大丈夫? 顔真っ青!」
マズい。何か言って誤魔化さないと、重病人扱いされてしまう。
巴が、塩屋さんの隣に立って言った。
「貧血? 保健室で休んだ方がいいよ」
「ん? ……あ、ああ、貧血貧血」
俺は、巴にできる限り軽いノリで、同意した。
いつの間にか傍に来ていた赤穂が、俺の顔を覗き込んで、宣言する。
「友田君を保健室に連れて行く。網干さん、悪いけど、明石先生に言いに行ってくれる? ……立てるか?」
机に手をついて立ち上がった……つもりだった。
足がぐにゃりと力を失い、塩屋さんたちが立っているのとは、反対方向に倒れこむ。体に全く力が入らない。
意識ははっきりしているのに、体だけが眠ってしまったのか。
女子の悲鳴が幾つも上がる。人が近づいてくる気配と足音。
塩屋さんが、心配そうに俺に呼び掛ける声が、やけに近い。
視界が真っ白で、自分が目を開けているのか、閉じているのかも、わからない。
赤穂が仕切る声が聞こえる。
「西代君、箒二本持って来て。この班のみんな、ジャージの上着貸してくれる?」
「え? うん。えぇけど、どないするん?」
巴が方言で聞いた。
赤穂は自分の席に戻ったのか、説明する声が遠い。
「簡易担架を作る。チャック閉めて、袖から裾に柄を通す。最低五枚要るから、いい?」
「うん。ちょっと待って」
頭周辺で、ガタガタ机と椅子を動かす音がする。




