54.創歌瑠
「ウチの美魔女は?」
「美容院」
クソ兄貴は、オカンをそう呼ぶ。
大学生の息子が居るとは思えない若作りで、派手な服を着るが、誰が見ても「華やかな美人」で、無理しちゃってる感は全くない。
魔法文明圏には、ゆっくり老化して何百年も生きる長命人種が居る。長命人種の魔女みたい、と言うことらしい。
クソ兄貴はオカンに似て顔だけはいい。
見るからに頭悪そうだが、背が高くて彫りが深くて、整った顔立ち。雑誌の素人モデルになったこともある。
撮影の後、何かバカなことをやらかして、二度と採用されなかったらしいが、詳細は不明だ。
「ブスは?」
「バイト」
姉ちゃんの事は、そう呼んで見下している。
小さい頃、オカンが「創歌瑠たんの妹と弟は、病院で取り違えられた」とか「本物の迷露茶ちゃんは、可愛いから妖精さんに誘拐されて、代わりに不細工な赤ちゃんを置いていかれた」とか言ってたのを、本気で信じているらしい。
姉ちゃんはショートカットで全体的に地味だけど、オカンが言うような不細工じゃない。
どこにでも居る普通の可愛い女子高生だ。
身内の欲目じゃなくて、もっとちゃんとした恰好させてもらえれば、もっと可愛くなると思う。
オカンは美容院に行くけど、姉ちゃんは千円カット。前髪だけなら自分で切らされるから、何か残念な感じになっているだけなんだ。
クソ兄貴に「お前ら、お情けで不細工な他人を育ててくれてる美魔女に感謝しろよ」と、真顔で言われたことがある。
もし、本当に俺達が【妖精の取り換えっ子】なら、その方が遥かに幸せだ。
姉ちゃんと俺は、地味な父ちゃんには似ている。
姉ちゃんが突っ込んだら「一緒に暮らしてりゃ、顔くらい似て当たり前。血筋じゃなくても似る」と、意味不明なことを言われた。
クソ兄貴には、遺伝の仕組みが理解できていないようだ。
そもそも、父ちゃんは忙しくて殆ど家に居ないのに「一緒に暮らしてれば」も何もない。
「休みの日もバイト? ブスは苦労するなぁ」
クソ兄貴は、せせら笑った。
鍋の熱湯をぶっかければ、お前も今すぐ、顔で苦労する人生が始まるんだがな。
そんなことしたら、俺に前科が付いてしまって、姉ちゃんが悲しむから、実行はしないけど。
こんなクズでも、人間の形をしている以上、法律上は人間として扱われてしまう。
こんなクズの為に人生棒に振りたくないから、我慢してやってるのに、何でこのクズは、それに気付かないんだろう。だからクズなのか。
「その点、オレはその気になりゃ、コレで食ってけるからな。今はまだ、ヒマ潰しで、本気出してないけどよ。オレが本気出したら、この辺の店、全部潰れるぞ?」
手で何かの動作をして、聞いてないのに自慢話が始まった。
「今日はちょっと調子悪かったけど、昨日は勝ってたから、トータルでは勝ってる」
要するに、今日は負けて帰って来たのか。
早く沸騰しないかな……って言うか、レトルトのカレーぐらい、自分でできるだろう。
クソ兄貴は、鍋を見詰める俺に喋り続ける。
こう言う時、対面式のカウンターキッチンは苦痛だ。調理台とテーブルの間に壁が欲しい。
「まぁ、負けたっつってもさ、打ってる時にオレが楽しけりゃ、それでイイんだ。お前らが菓子食ってんのと一緒。お楽しみって奴だ」
俺たちは、親戚ん家に行った時か、お前とオカンが居ない所で、誰かに直接もらった時にしか、お菓子を食べられないんだ。一緒にすんな。
「あの店、オレにビビってんのか知らねーけど、おかしいんだぜ? 今日、七万持ってかれてよ……オイ、聞いてんのかよ?」
一日で七万もスッたのか……
俺は、無言で頷きながらカレーを皿に盛り、お湯を捨てた。
調理台の反対側に回り込んで、クソ兄貴の前にカレー皿を置く。
部屋に戻ろうとする俺の腕を掴んで、穀潰しがヤニ臭い息を吐きながら、一方的にバカ話を続ける。
「店の奴、設定いじくりやがって、前はあの台出てたのに今日はサッパリでやんの。しかもオレがどいた途端、後から来た奴が当ててよ、絶対、遠隔やってんよな? オイ!」
「え……? 話が難しくてわかんないよ」
十八歳未満の中学生にそんな話、通じると思う方がおかしいだろう。
「チッ! バカに話振るんじゃなかった! ちっとは勉強しろよ!」




