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碩学の無能力者  作者: 髙津 央
第08章.作戦

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54.創歌瑠

 「ウチの美魔女は?」

 「美容院」

 クソ兄貴は、オカンをそう呼ぶ。


 大学生の息子が居るとは思えない若作りで、派手な服を着るが、誰が見ても「華やかな美人」で、無理しちゃってる感は全くない。

 魔法文明圏には、ゆっくり老化して何百年も生きる長命人種(ちょうめいじんしゅ)が居る。長命人種の魔女みたい、と言うことらしい。


 クソ兄貴はオカンに似て顔だけはいい。

 見るからに頭悪そうだが、背が高くて彫りが深くて、整った顔立ち。雑誌の素人モデルになったこともある。

 撮影の後、何かバカなことをやらかして、二度と採用されなかったらしいが、詳細は不明だ。


 「ブスは?」

 「バイト」

 姉ちゃんの事は、そう呼んで見下している。


 小さい頃、オカンが「創歌瑠(そうる)たんの妹と弟は、病院で取り違えられた」とか「本物の迷露茶(めろでぃ)ちゃんは、可愛いから妖精さんに誘拐されて、代わりに不細工な赤ちゃんを置いていかれた」とか言ってたのを、本気で信じているらしい。


 姉ちゃんはショートカットで全体的に地味だけど、オカンが言うような不細工じゃない。

 どこにでも居る普通の可愛い女子高生だ。


 身内の欲目じゃなくて、もっとちゃんとした恰好させてもらえれば、もっと可愛くなると思う。

 オカンは美容院に行くけど、姉ちゃんは千円カット。前髪だけなら自分で切らされるから、何か残念な感じになっているだけなんだ。


 クソ兄貴に「お前ら、お情けで不細工な他人を育ててくれてる美魔女に感謝しろよ」と、真顔で言われたことがある。


 もし、本当に俺達が【妖精の取り換えっ子(チェンジリング)】なら、その方が遥かに幸せだ。


 姉ちゃんと俺は、地味な父ちゃんには似ている。

 姉ちゃんが突っ込んだら「一緒に暮らしてりゃ、顔くらい似て当たり前。血筋じゃなくても似る」と、意味不明なことを言われた。


 クソ兄貴には、遺伝の仕組みが理解できていないようだ。

 そもそも、父ちゃんは忙しくて(ほとん)ど家に居ないのに「一緒に暮らしてれば」も何もない。


 「休みの日もバイト? ブスは苦労するなぁ」

 クソ兄貴は、せせら笑った。


 鍋の熱湯をぶっかければ、お前も今すぐ、顔で苦労する人生が始まるんだがな。

 そんなことしたら、俺に前科が付いてしまって、姉ちゃんが悲しむから、実行はしないけど。


 こんなクズでも、人間の形をしている以上、法律上は人間として扱われてしまう。

 こんなクズの為に人生棒に振りたくないから、我慢してやってるのに、何でこのクズは、それに気付かないんだろう。だからクズなのか。


 「その点、オレはその気になりゃ、コレで食ってけるからな。今はまだ、ヒマ潰しで、本気出してないけどよ。オレが本気出したら、この辺の店、全部潰れるぞ?」

 手で何かの動作をして、聞いてないのに自慢話が始まった。


 「今日はちょっと調子悪かったけど、昨日は勝ってたから、トータルでは勝ってる」

 要するに、今日は負けて帰って来たのか。


 早く沸騰しないかな……って言うか、レトルトのカレーぐらい、自分でできるだろう。


 クソ兄貴は、鍋を見詰める俺に喋り続ける。

 こう言う時、対面式のカウンターキッチンは苦痛だ。調理台とテーブルの間に壁が欲しい。


 「まぁ、負けたっつってもさ、打ってる時にオレが楽しけりゃ、それでイイんだ。お前らが菓子食ってんのと一緒。お楽しみって奴だ」


 俺たちは、親戚ん家に行った時か、お前とオカンが居ない所で、誰かに直接もらった時にしか、お菓子を食べられないんだ。一緒にすんな。


 「あの店、オレにビビってんのか知らねーけど、おかしいんだぜ? 今日、七万持ってかれてよ……オイ、聞いてんのかよ?」


 一日で七万もスッたのか……


 俺は、無言で(うなず)きながらカレーを皿に盛り、お湯を捨てた。

 調理台の反対側に回り込んで、クソ兄貴の前にカレー皿を置く。


 部屋に戻ろうとする俺の腕を掴んで、穀潰(ごくつぶ)しがヤニ臭い息を吐きながら、一方的にバカ話を続ける。

 「店の奴、設定いじくりやがって、前はあの台出てたのに今日はサッパリでやんの。しかもオレがどいた途端、後から来た奴が当ててよ、絶対、遠隔やってんよな? オイ!」

 「え……? 話が難しくてわかんないよ」


 十八歳未満の中学生にそんな話、通じると思う方がおかしいだろう。


 「チッ! バカに話振るんじゃなかった! ちっとは勉強しろよ!」

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
【関連が強い話】
野茨の血族」 巴君のその後。
虚ろな器」 高校生になった友田君が登場。
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