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碩学の無能力者  作者: 髙津 央
第08章.作戦

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51.技解説

 「荷物を持たず、こうやって【手を繋ぐ】のも親密な動作よ。手の形はこう。覚えて」

 姉ちゃんは、問答無用で俺の手を握り、指を絡めたカップル繋ぎの形に持ち込んだ。

 プロレス技の解説でもされてる気分だ。


 そう、これはプロレスだ。

 プロレスを全く知らない子に、技の説明をしてるだけなんだ。姉ちゃんの手がやわらかいとか、姉ちゃんの手があったかいとか、そんなの関係ない。


 これは技なんだ。必殺技の【カップル繋ぎ固め】なんだ!


 「その形ですね。記憶しました」

 デーレヴォは「プロレス」に興味がないと言うか、意味すらわからないまま「形」だけを正確に記憶する。

 一生懸命覚える表情はなんだか可愛いけど、やっぱりゴーレムなんだな。


 「男側から仕掛ける親密な動作は二種類。まずはこれ。【肩を組む】よ」

 姉ちゃんは俺の左手を取り、自分の肩に乗せた。俺は隣に並んで立つ姉ちゃんの左肩を掴んで引き寄せた。


 デーレヴォは、純真な瞳で俺たちの動作を見詰めている。


 社交ダンスって手を繋ぐし、肩組むし。やったことないけど……


 「もう一種類はこれ。【腰に手を回す】」

 姉ちゃんは俺の手を降ろして、自分の腰の辺りに持って行った。俺は姉ちゃんの腰を自分の方に引き寄せた。


 これは、社交ダンス! 社交ダンスのお手本なんだ!

 (やま)しくなんかない……!


 「記憶しました」

 「次、女側からの親密な動作。【腕を組む】」

 姉ちゃんは、俺の左腕に両腕を絡ませ、胸を押し付けてきた。


 意外に大きくふっくらしたあたたかい感触に、頭がどうにかなりそうだ。全神経が腕の一点に集中する。でも、頭の一部は妙に冷静で、動作の意味を分析する。


 これ【腕を組む】って言うけど、絶対メインの目的は【胸を押し付ける】だよな……


 「記憶しました」


 「男女どちらから仕掛けてもいいけど、こういうのも親密な動作よ。覚えて」

 姉ちゃんは、俺の背後に回り込み、両手で俺に目隠しして「だーれだ!」と、元気一杯に言った。


 「親密であるなら、声で行為者が判別可能ですが、どのような意味があるのでしょうか」

 「意味はないわ。【親密な相手でなければ成立しない遊戯】の一種よ」

 デーレヴォの鋭い質問に、姉ちゃんが事務的に回答した。


 「記憶しました」


 バカップルって、冷静に分析したらホントにバカなんだ。


 「手の形は問わず【背後から抱きつく】のも大抵、親密な異性間の動作なの。覚えて」

 姉ちゃんはそう言って、俺に抱きついた。

 背中にふたつ、ふっくらふわふわのあたたかい感触。

 

 俺は、今度は全神経が背中の二点に集中しそうになるのを、必死に分散させ、正面に座っているデーレヴォに注目した。


 デーレヴォは、銀色の瞳で俺達の動きを見逃さないように、一生懸命観察している。

 恥じらったり照れたりしないのは、動作の意味を知らないからだろう。

 きっと、これがジャーマンスープレックスの第一段階と同じ動作であることも、知らない。


 「記憶しました」

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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