51.技解説
「荷物を持たず、こうやって【手を繋ぐ】のも親密な動作よ。手の形はこう。覚えて」
姉ちゃんは、問答無用で俺の手を握り、指を絡めたカップル繋ぎの形に持ち込んだ。
プロレス技の解説でもされてる気分だ。
そう、これはプロレスだ。
プロレスを全く知らない子に、技の説明をしてるだけなんだ。姉ちゃんの手がやわらかいとか、姉ちゃんの手があったかいとか、そんなの関係ない。
これは技なんだ。必殺技の【カップル繋ぎ固め】なんだ!
「その形ですね。記憶しました」
デーレヴォは「プロレス」に興味がないと言うか、意味すらわからないまま「形」だけを正確に記憶する。
一生懸命覚える表情はなんだか可愛いけど、やっぱりゴーレムなんだな。
「男側から仕掛ける親密な動作は二種類。まずはこれ。【肩を組む】よ」
姉ちゃんは俺の左手を取り、自分の肩に乗せた。俺は隣に並んで立つ姉ちゃんの左肩を掴んで引き寄せた。
デーレヴォは、純真な瞳で俺たちの動作を見詰めている。
社交ダンスって手を繋ぐし、肩組むし。やったことないけど……
「もう一種類はこれ。【腰に手を回す】」
姉ちゃんは俺の手を降ろして、自分の腰の辺りに持って行った。俺は姉ちゃんの腰を自分の方に引き寄せた。
これは、社交ダンス! 社交ダンスのお手本なんだ!
疚しくなんかない……!
「記憶しました」
「次、女側からの親密な動作。【腕を組む】」
姉ちゃんは、俺の左腕に両腕を絡ませ、胸を押し付けてきた。
意外に大きくふっくらしたあたたかい感触に、頭がどうにかなりそうだ。全神経が腕の一点に集中する。でも、頭の一部は妙に冷静で、動作の意味を分析する。
これ【腕を組む】って言うけど、絶対メインの目的は【胸を押し付ける】だよな……
「記憶しました」
「男女どちらから仕掛けてもいいけど、こういうのも親密な動作よ。覚えて」
姉ちゃんは、俺の背後に回り込み、両手で俺に目隠しして「だーれだ!」と、元気一杯に言った。
「親密であるなら、声で行為者が判別可能ですが、どのような意味があるのでしょうか」
「意味はないわ。【親密な相手でなければ成立しない遊戯】の一種よ」
デーレヴォの鋭い質問に、姉ちゃんが事務的に回答した。
「記憶しました」
バカップルって、冷静に分析したらホントにバカなんだ。
「手の形は問わず【背後から抱きつく】のも大抵、親密な異性間の動作なの。覚えて」
姉ちゃんはそう言って、俺に抱きついた。
背中にふたつ、ふっくらふわふわのあたたかい感触。
俺は、今度は全神経が背中の二点に集中しそうになるのを、必死に分散させ、正面に座っているデーレヴォに注目した。
デーレヴォは、銀色の瞳で俺達の動きを見逃さないように、一生懸命観察している。
恥じらったり照れたりしないのは、動作の意味を知らないからだろう。
きっと、これがジャーマンスープレックスの第一段階と同じ動作であることも、知らない。
「記憶しました」




