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碩学の無能力者  作者: 髙津 央
第08章.作戦

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50.恋遊戯

 姉ちゃんは、プレッツェルの箱を取り出した。

 緑箱……サラダ味だ。姉ちゃんはチョコ系のお菓子がトラウマになってるから、例のアレは買えない。


 家族の食費でお菓子を買ったら、オカンに怒られるから、これの説明の為だけに独立資金を取り崩したんだ。

 小額とは言え痛い出費だ。色んな意味で。


 「姉ちゃん…………これって……あの……………………………………マジでやるの?」

 「寸止めで食い千切るのよ」

 「……はい」


 姉ちゃんは、デーレヴォの方を向いて真顔で説明した。

 「お菓子の種類は問わないけど、大抵こういう細長い形状の物を使うの。この両端を異性が(くわ)えて、同時に食べるのも、親密な動作よ。見本を見せるから覚えてね」

 「かしこまりました」


 かしこまらないでくれ。


 姉ちゃんは、プレッツェルの端を咥えて俺に向き直った。

 横目でデーレヴォを見る。平常運転で俺の動きを待っていた。

 覚悟を決めて、もう一方の端を咥える。

 姉ちゃんに肩を掴まれたので、俺も掴み返した。

 姉ちゃん高三、俺中二。まだ姉ちゃんの方がちょっとだけ背が高い。

 近い。

 姉ちゃんの顔が近い。

 目を閉じたら寸止めがわからなくなるので、息を止め、瞬きすらせずに、少しずつ少しずつ、プレッツェルを咀嚼する。


 ポリ、ポリポリ、ポリポリポリ……


 唇が触れる寸前で同時に腕を伸ばした。

 一気に顔の距離が開き、息を吐き出す。

 「本当は、最後の所で引き離さずに口を付けるの」

 「何故、正しい動作の見本を示さないのですか?」

 デーレヴォは不思議そうな顔で首を(かし)げた。

 【ゴーレム】とは【胎児】を意味する古代語だ。デーレヴォは人間のことをよく知らないらしい。


 本当に純粋な存在なんだ……


 姉ちゃんは、デーレヴォの疑問に(よど)みなく答える。

 「本来は、血縁関係のない異性が行う動作だからよ。私達は姉弟だから、正式な動作はしちゃダメなの」

 「明日、笑美華(えみか)が会う相手との血縁関係の有無は、どのように確認すれば、よいのでしょうか」


 デーレヴォにオカンを「俺たちの母」と言われるのが嫌で、名前で呼ぶように頼んである。


 「それは私がメールで確認したから、気にしなくていいわ。龍寿(りゅうじゅ)っていう男の人。待ち合わせ場所で、お母さんと喋ってたら、名前を言ってなくても、その人が龍寿よ」

 「かしこまりました」


 姉ちゃんは、()くまでも事務的に説明する。

 いちいちドキドキしたり、赤くなったりしてる俺が、バカみたいだ。


 「次。荷物の種類と形状、重量は問わないけど……ちょっと、あんた立って」

 俺は言われるままに、椅子から立ち上がった。


 姉ちゃんは、スーパーのビニール袋にプレッツェルの箱を入れて、俺の隣に立った。

 「で、こっち側持って」

 俺は言われた通りに持ち手の一方を持った。

 姉ちゃんは、もう一方を持ったままだ。

 「こういう風に【ひとつの荷物を二人で持つ】のも親密な動作だから、覚えて」


 「記憶しました」

 デーレヴォは、姉ちゃんと同じ真剣な表情で答えた。

 姉ちゃんは、袋をテーブルに置いた。俺も手を離す。

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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