49.お手本
昨夜は、作戦会議の途中から、デーレヴォにも参加してもらった。
機器類の扱い方は教えたけど、動いている人物を撮るのはぶっつけ本番だ。どんな動作を撮るのか、姉ちゃんが俺を使って一応、見本は示してある。
姉ちゃんは、真剣な表情でデーレヴォに説明した。
「食べ物と食器の種類は問わないけど、こうやって【異性に何か食べさせる】のは、親密な動作なの。いい? 今からやるのをよく見て覚えてね」
そう言うと、豚の生姜焼きをスプーンに乗せて、俺に「はい、あーんして」と言った。
バカップルの演技だから、姉ちゃんは超・笑顔だ。
……これは見本。模範演技なんだ。
俺は、自分に何度も言い聞かせながら、目をつぶって「あーん」した。
口に入れられた生姜焼きをよく噛んで飲み下す。
味はよくわからなかった。
デーレヴォは「その動作ですね。記憶しました」と、何の感慨もなく言っただけだった。
拍子抜けしたが、キャーキャー騒がれるよりは、マシかも知れない。
「次は、これ」
姉ちゃんは、牛乳を注いだグラスにストローを二本挿した。
俺の隣に座って、二人の間にグラスを置く。
「まさか……」
「そう。そのまさか。【一杯の飲み物を二人で分かち合う】よ」
姉ちゃんは、飽くまで真剣そのものだ。
さっきのもそうだけど、今時、こんなベタなコトするカップル、居るのかッ?
……いや、あのオカン(帝都在住、主婦、44歳)ならやりかねん。
つーか、やる。実際、【はい、あーんして】は、たまにクソ兄貴にやる。
奴も機嫌のいい時は「ママ、おいちいね」とか言ってノッてるし。
「飲み物の種類と、グラスとストローの形状は問わないけど、こうやって、異性と一杯の飲み物を一緒に飲むのは、親密な動作なの。これも覚えて」
俺と姉ちゃんは、無言で視線を交わし、同時にストローに口を付けた。
デーレヴォは、向かいの席で俺たちが牛乳を飲み干すのをじっと見守る。
何この羞恥プレイ。
姉ちゃんの顔が近い。
全力で牛乳を吸いこんで、ストローから口を離し、息を吐く。
「その動作ですね。記憶しました」
デーレヴォは、さっきと変わらない。顔色ひとつ変えず冷静に言った。
「さ、どんどん説明するよ」




