48.始動す
土曜日。
作戦開始六日目にして、俺達は大きな山場を迎えた。
今日の行動の成否が、未来を決める。
オカンは昨夜、終電前に帰ってきた。
今日は十時半に美容院の予約があるから、九時に起こせと言われた。
今は、朝食が終わって外出準備中だ。
デーレヴォに、フル充電したデジカメとICレコーダ、使い捨てカメラと充電器を入れた遠足用のリュックを持たせた。
靴を履かせ、透明化させて玄関で待機させる。
姉ちゃんの指示で、デーレヴォには、既に色々頼んである。
オカンが帰宅するまで透明化を解除せず、尾行を続ける。
オカンが乗り物に乗ったら、飛んで追跡する。
待ち合わせ先で男と会ったら、使い捨てカメラで写真を撮る。特に親密な動作は必ず。
二人の室内での会話をICレコーダで録音する。
二人の移動中の様子は、デジカメの動画機能で撮る。
ホテルや相手の家に行ったら、入る様子を使い捨てカメラで撮る。その建物の外観と所在地がわかる物……郵便受けや電柱の住所表示も、あれば撮る。
充電が切れた場合、誰にも見つからず且つ、二人から離れずに実行可能なら充電する。
俺は緊張し過ぎて、今朝は起きてから、何度もトイレに行っている。
黒江さんの事、メンタル弱いとか、言えた義理じゃなかった。
胃まで痛くなってきた。
姉ちゃんは、全くいつも通りに振舞って、オカンよりも先に家を出ていた。
オカンはブランド服に身を包み、ばっちりメイクをキメて、半年分の生活費を注ぎ込んだブランドバッグを持って「行ってきます」とも、いつ帰るとも言わずに出て行った。
デーレヴォが尾行を開始する。
玄関の鍵を掛けると、緊張の糸が切れたのか、膝が笑って力が入らなくなった。廊下に這い上がって壁にもたれ、大きく息を吐き出す。
後はデーレヴォに任せるしかない。
巴先生は、使い魔の黒江さんが見た物、聞いた音を同時に知ることが出来る。
でも、俺は、デーレヴォが何を見聞きしても、わからない。
契約で結ばれた使い魔と違い、ゴーレムと使用者の知覚は、接続されないからだ。
巴先生なら、黒江さんにケータイを持たせていれば、マズいと思った時に電話で追加の指示を出して、危機を回避できる。
でも、俺にはデーレヴォの無事を祈ることしかできない。
宿題は昨日の夜に終わらせてある。
自室に戻り、二度寝の体勢に入る。
俺だけ何もしないで寝るなんて……
姉ちゃんは、店長に事情を話して、今日のバイトを休ませてもらった。今は先回りして、オカンたちの待ち合わせ場所に向かっている。
万一、デーレヴォが撮れなかった場合に備えて、姉ちゃんが行ける所まで行って撮る。所謂、保険だ。




