29.迷露茶
「ちょっと、そんなカッコで寝たら風邪引くじゃない」
姉ちゃんの声で起き上る。
窓の外は真っ暗だった。
「今日はね、店長がトンカツ分けてくれたから、カツカレー。早く食べよっ」
姉ちゃんは、食堂でバイトしている。
高校の最寄り駅の前で、客は大学生やサラリーマンがメイン。
店長は、話の分かるおばちゃんだ。
姉ちゃんが、オカンにバイト代を巻き上げられる事を言ったら、研修期間終了後の時給UP分は、口座に振り込まず、現金払いにしてくれた。
姉ちゃん用に手提げ金庫を用意して、店の金庫の中で別保管してくれている。
姉ちゃんの金庫には、この二年ちょっとで、大卒の初任給くらい貯まっていて、寮付きの会社に就職できたら、最初の給料が出るまで、余裕で凌げるらしい。
おまけに、賄いをテイクアウトさせてくれるから、食費と栄養も助かっていた。店長には、どれだけ感謝しても足りない。
俺達姉弟の命の恩人だ。
体に力が入らない。のろのろした動作で、ベッドから這い出る。
何か落ちた。
銀の腕環……
一気に目が覚めた。腕環を拾い上げる。
夢じゃなかった!
「キレイね。それ、どうしたの?」
「腹減った……食べながら説明するよ」
俺は、順を追って説明した。
但し、デーレヴォが裸で出現した件は、内緒だ。
話している内に昼間の感動と興奮が蘇ってきて、胸が熱くなる。
姉ちゃんは、驚いたり、喜んだり、神妙な顔をしたり、くるくる表情を変えて、相槌を打ちながら、最後まで聞いてくれた。
「改名の条件は、法務省とか家庭裁判所のサイトで、ちゃんと調べようね」
姉ちゃんは慎重に言った。
一応、学校の課題や宿題で使うから、クソ兄貴と姉ちゃん&俺に一台ずつ、ノートパソコンが与えられている。回線もそれぞれの部屋に引いてある。
父ちゃんとオカンの部屋にも一台ある。
オカンはメカ音痴だから、俺達のパソコンには触らない。せいぜい、ネット通販するくらいだ。
説明の最後に、俺は腕環を着けた。




