30.諜報員
巴家で貰った服を着たデーレヴォが現れる。
「すっごい……かっわいいいい!」
姉ちゃんは、デーレヴォに抱きついて、無邪気に喜んでいる。
銀髪の美少女は、ストレートに褒められて照れたのか、微かに頬を染めて、はにかんだ。
可愛い……この笑顔の為なら、過労死してもいい!
「あ、この子の晩ご飯どうしよ? 何食べるの? カレー大丈夫?」
「デーレヴォ、カレー食べられますか?」
「私には、物を食べる機能がありません」
デーレヴォは、淡々と答えた。
ホントに魔力か体力だけで動くんだ。
それを聞いて、姉ちゃんは、デーレヴォを放して椅子に座り、真剣な顔で考えことを始めた。考え中の姉ちゃんには、話しかけてはいけない。
俺はそっと立ち上がって、食器を流しに運び、デーレヴォに食器の洗い方を説明した。
食器を洗いあげ、お茶の淹れ方も説明する。
テーブルに湯呑みを置くと、姉ちゃんは重々しく口を開いた。
「この子って……可愛いけど、諜報員……なのよね?」
「えっ……あ、うん。巴先生はそう言ってたけど……」
姉ちゃんの向かいに俺、俺の左隣にデーレヴォが座っている。
姉ちゃんは、お茶を一口すすって湯呑みを置くと、今まで見たこともない険しい表情を俺に向けた。
「お父さんに、離婚してもらおう」
「えっ!?」
唐突な言葉に思考が停止する。
姉ちゃんは、苦しそうに説明を始めた。
「お母さんはね、浮気してるの。私は今……少しずつ証拠を集めてて、クレジットカードの明細とかをゴミ箱から拾って、学校のロッカーに貯めてるの。お母さんが毎日何時に帰ってきて、その時、どんな様子かも記録してんの。でも、それだけじゃ、証拠として弱過ぎて、お父さんには言えなかったの」
全然、知らなかった……
「今のまま名前を変えたら、絶対、お母さんに殺される。だから、お父さんにお母さんを追い出してもらおう。あんただって、あんなお母さん、いらないでしょ?」
姉ちゃんと俺は、お互いに名前を呼ばない。俺は無言で頷いた。
「明日、ICレコーダとカメラ買ってくるから、この子に使い方を教えて」
デーレヴォという諜報員を得た俺たちは、家族の皮を被った敵との戦いを始めた。




