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碩学の無能力者  作者: 髙津 央
第05章.腕環

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27.十五歳

 「あ、そうだ、名前」

 先生が唐突に話題を変えた。


 「十五歳になったら、自分で好きな名前に変えられるんだって」

 「えっッ? マジっスかッ?」

 俺は全力で食いついた。


 「僕はよく知らないけど、前に経済(つねずみ)が調べてたんだ。色々条件はあるけど、家庭裁判所で手続きするんだって。手数料が何千円か掛かるって言ってた」


 ツネズミ……字の想像がつかない。「津鼠」……いや、まさかな。

 誰だか知らないけど、俺たちの他にも、名前で苦労してる人がいるんだ……まぁ、だからちゃんと、改名の手続きがあるんだろう。


 一万円でお釣りがくるなら、俺でも払える。

 鯉澄(りずむ)なんかやめて、幸助になれるんだ……

 姉ちゃんは今すぐにでも迷露茶(めろでぃ)をやめられる!


 「ありがとうございます!」

 俺は、立ち上がって最敬礼した。


 「名前が嫌だと、自分を好きになれないものね」

 先生の言葉に涙が(こぼ)れそうになった。細くゆっくりと息を吐いて顔を上げる。


 先生は、ちょっと寂しそうに微笑んで、俺に座るように促してくれた。


 それから(しばら)く、三人で中学の話をしていると、人外二人が戻ってきた。

 デーレヴォは、ちょっと古めかしくて……微妙にダサい近所のおばちゃんみたいな恰好になっていた。

 白地に小さな花模様がプリントされたカットソー、若草色のカーデガン、ベージュの綿パン。髪は後ろでまとめて三つ編みにしてある。

 表情のないデーレヴォは、服を着ても生々しいマネキンのままだった。


 「友田君、ちょっと通してくれる? 黒江、立つの手伝って」

 俺が立ち上がって壁際に退くと、先生は黒江さんに支えられて立ち上がり、ベッドの柵に立て掛けてあった杖を手に取った。


挿絵(By みてみん)


 戸口に立ったままのデーレヴォに近付き、杖の先端で彼女の肩に触れる。

 「じゃあ、この服を同期させるね」

 俺がなんだかよくわからないまま(うなず)くと、先生は女の子みたいな可愛い声で、呪文を唱えだした。何語かわからない。不思議な響きの言葉だ。


 今、目の前で本物の魔術師が魔法を使っている。

 全身に鳥肌が立つ。

 感動なのか、恐怖なのか、興奮なのかわからない感情が、全身を駆け巡った。

 初・賢者との対面。

 初・魔法使いとの対面。

 初・異性の全裸目撃。

 初・マジックアイテム使用、そして他人への命令……


 この数時間で起きた色々な、初体験が頭の中を駆け巡る。


 長いような、短いような詠唱が終わり、先生は杖の石突(いしづ)きで、床をトントンと打った。デーレヴォには、特に目立った変化はない。


 「服を同期……えっと、霊的に固定したから、腕環から出し入れする度に服を着せなくてもよくなったよ。着替えもできるけど、これ以外の服は腕環に戻した時に脱げて、次に腕環から出したらこの服に戻ってるからね。一応、確認の為に戻してくれる?」

 「ありがとうございます! えっと、戻すって……どうやればいいんでしょう?」


 「腕環に戻るように命令するか、腕環を外せばいいと思うよ」

 俺は無言で腕環を外し、命令することから逃げた。


 デーレヴォの輪郭がぼやける。全身が色付きの(もや)になり、あっという間に腕環に吸い込まれて消えた。

 俺と巴は、同時に息を吐いて顔を見合わせた。


 「もう一度出して、どんな機能があるか聞いてくれる?」

 先生に言われるまま、腕環を着けた。さっきと同じようにルビーが輝き、靄が渦を巻く。

 反射的に目を()らす。巴と目が合った。

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
【関連が強い話】
野茨の血族」 巴君のその後。
虚ろな器」 高校生になった友田君が登場。
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