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碩学の無能力者  作者: 髙津 央
第05章.腕環

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25.初命令

 「こちらを向いても大丈夫です。シーツを(かぶ)せました」

 魔法戦士が、(なまり)のない流暢(りゅうちょう)な日之本帝国語で言った。


 俺と(ともえ)は顔を見合わせ、(かす)かに頷き合った。同時に、ゆっくりと少女の方を見る。


 銀髪の少女は無表情に(たたず)んでいた。

 ウェディングドレスみたいに真っ白なシーツを巻きつけられている。


 クラスの誰よりも膨らんだ胸より下は、見えなくなっていたが、ほっそりとした腕と肩は(あら)わだ。

 鎖骨の浮いた白い肌には、やっぱりドキドキする。


 ストレートの銀髪が腰まで伸び、瞳も銀色。俺たちよりも年上だけど、姉ちゃんよりは年下に見える。

 腕環のデザインと同じ印象の繊細で整った顔立ち。でも、表情がないから、人形のような美しさだった。


 ん? ゴーレムだから、人形で合ってるのか?


 「服はセットじゃないんだね。うちで余ってるのをあげるね。黒江」

 黒猫がベッドから飛び降り、床に着地した瞬間、ポンッっと音がして、執事っぽい年配の男性になった。

 変身に一秒も掛かっていない。


 「黒江、押入れの婦人服から春物の普段着を一揃(ひとそろ)え、その腕環に着せてあげて」

 「かしこまりました」

 黒江さんは先生に一礼して、腕環の少女に「来なさい」と、声を掛け、ドアを開けた。


 腕環の少女は、ノーリアクション。

 マネキンのように突っ立ったまま、動かない。


 「友田君、腕環に命令して」

 「えっ? は、はい! め……命令、命令……」

 先生に言われて、愕然(がくぜん)とする。


 俺、オカンとクソ兄貴に命令されたことはあっても、自分で誰かに命令したことなんてない……何をどう言えばいいんだ?


 困惑する俺に、先生が助言を与えてくれた。

 「まず名前を名乗るように言って、それからその名前を呼んで命令するの。今は『この部屋に戻ってくるまで黒江の指示に従え』って言って」


 「はい! えっと、名前を名乗って……下さい」

 何故か敬語になる俺。


 「デーレヴォ」

 少女の形のいい唇が動いた。南部鉄(なんぶてつ)風鈴の音色を思わせる涼やかで澄んだ声。

 巴は、驚いた顔で固まっている。


 「あ、えっ? 日之本語わかるんだ? 何で? ……あ、えっと名前なんだっけ? すみません、もう一回言って下さい」

 「湖南(こなん)語とご主人様がご存知の言語は全て理解できます。私の名は【デーレヴォ】です」

 腕環の少女デーレヴォは音声案内のように答えた。


 って、えっ? ご主人様ッ? 俺ッ? 俺のことッ?

 俺、全力で平凡な庶民で中坊なのにッ?


 「湖南(こなん)地方で製造されたんだろうね。きっと元々輸出用だから多言語対応なんだよ。名前は湖南語で【樹木】って言う意味だよ」

 先生は、ビビる俺を他所に、キラキラした目で腕環を見ながら、説明してくれた。


 湖南地方……チヌカルクル・ノチウ大陸にある世界最大の塩湖ラキュスの南……その中の、どの国出身なんだろう?


 「早く着替えに行かせなさい」

 魔法戦士がドアを指差す。

 黒江さんは、廊下で眉間に皺を寄せて待っていた。


 俺は、何度も噛んだり詰まったりしながらも、何とか先生に教わった通りに命令した。

 デーレヴォは「かしこまりました、ご主人様」と、自動応答みたいに無機質な返事をして、黒江さんについて行った。


 使い魔とマジックアイテムの姿が見えなくなると、巴がふぅーっと大きく息を吐いた。

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
【関連が強い話】
野茨の血族」 巴君のその後。
虚ろな器」 高校生になった友田君が登場。
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