25.初命令
「こちらを向いても大丈夫です。シーツを被せました」
魔法戦士が、訛のない流暢な日之本帝国語で言った。
俺と巴は顔を見合わせ、微かに頷き合った。同時に、ゆっくりと少女の方を見る。
銀髪の少女は無表情に佇んでいた。
ウェディングドレスみたいに真っ白なシーツを巻きつけられている。
クラスの誰よりも膨らんだ胸より下は、見えなくなっていたが、ほっそりとした腕と肩は露わだ。
鎖骨の浮いた白い肌には、やっぱりドキドキする。
ストレートの銀髪が腰まで伸び、瞳も銀色。俺たちよりも年上だけど、姉ちゃんよりは年下に見える。
腕環のデザインと同じ印象の繊細で整った顔立ち。でも、表情がないから、人形のような美しさだった。
ん? ゴーレムだから、人形で合ってるのか?
「服はセットじゃないんだね。うちで余ってるのをあげるね。黒江」
黒猫がベッドから飛び降り、床に着地した瞬間、ポンッっと音がして、執事っぽい年配の男性になった。
変身に一秒も掛かっていない。
「黒江、押入れの婦人服から春物の普段着を一揃え、その腕環に着せてあげて」
「かしこまりました」
黒江さんは先生に一礼して、腕環の少女に「来なさい」と、声を掛け、ドアを開けた。
腕環の少女は、ノーリアクション。
マネキンのように突っ立ったまま、動かない。
「友田君、腕環に命令して」
「えっ? は、はい! め……命令、命令……」
先生に言われて、愕然とする。
俺、オカンとクソ兄貴に命令されたことはあっても、自分で誰かに命令したことなんてない……何をどう言えばいいんだ?
困惑する俺に、先生が助言を与えてくれた。
「まず名前を名乗るように言って、それからその名前を呼んで命令するの。今は『この部屋に戻ってくるまで黒江の指示に従え』って言って」
「はい! えっと、名前を名乗って……下さい」
何故か敬語になる俺。
「デーレヴォ」
少女の形のいい唇が動いた。南部鉄風鈴の音色を思わせる涼やかで澄んだ声。
巴は、驚いた顔で固まっている。
「あ、えっ? 日之本語わかるんだ? 何で? ……あ、えっと名前なんだっけ? すみません、もう一回言って下さい」
「湖南語とご主人様がご存知の言語は全て理解できます。私の名は【デーレヴォ】です」
腕環の少女デーレヴォは音声案内のように答えた。
って、えっ? ご主人様ッ? 俺ッ? 俺のことッ?
俺、全力で平凡な庶民で中坊なのにッ?
「湖南地方で製造されたんだろうね。きっと元々輸出用だから多言語対応なんだよ。名前は湖南語で【樹木】って言う意味だよ」
先生は、ビビる俺を他所に、キラキラした目で腕環を見ながら、説明してくれた。
湖南地方……チヌカルクル・ノチウ大陸にある世界最大の塩湖ラキュスの南……その中の、どの国出身なんだろう?
「早く着替えに行かせなさい」
魔法戦士がドアを指差す。
黒江さんは、廊下で眉間に皺を寄せて待っていた。
俺は、何度も噛んだり詰まったりしながらも、何とか先生に教わった通りに命令した。
デーレヴォは「かしこまりました、ご主人様」と、自動応答みたいに無機質な返事をして、黒江さんについて行った。
使い魔とマジックアイテムの姿が見えなくなると、巴がふぅーっと大きく息を吐いた。




