24.それは
「じゃあ、友田君の持ってるそれが何かも知ってる?」
「え……それ? ……あ、これ? 魔法の腕環って聞きましたけど……」
俺はパーカーのポケットから、腕環を取り出した。
巴もカップを置いて、腕環に注目する。
先生と巴、どちらをメインに見せるか決めかねて、俺は腕環を掌に乗せて固まった。
「悪い物ではないね。使い方は知ってる?」
それは「品質の良し悪し」なのか「邪悪な物ではない」という意味なのか。
俺は、ちょっとビビりながら、左手首に腕環をつけた。
腕環に嵌っていた赤い石が淡く輝き、白っぽい靄が立ち昇る。ゆっくりと渦を巻きながら丸テーブルの横に凝集し、人のような形を成す。
次の瞬間、赤い石が閃光を放った。
「うわーッ!」
俺と巴が同時に叫んで目を逸らす。
光が消えた後、丸テーブルの横には、銀髪の少女が佇んでいた。
全裸で。
これか! これが家の中でしか使えない理由なのかッ?
「友田君、腕環見せてくれる?」
先生は、平然と俺に話し掛けてきた。魔法戦士の美女もノーリアクション。
黒江さんは……ドアの近く、少女の向こうに立っているので、断じて、そっちを見る訳にはいかない。
巴は、耳まで真っ赤にして俯いている。
俺も多分そうだろう。
「な……な……な……何なんですか、これッ?」
「ゴーレムの一種だね。おつかい頼んだり、家の用事手伝ってもらったりするの。正確なことはちゃんと調査しないとわからないけど、使用者の魔力や体力が動力源だと思うよ」
腕環の説明をする先生は、何だか嬉しそうだった。
って言うか、どうして先生は、俺が魔法の腕環を持ってるって、わかったんだ?
「先生の使い魔……みたいなもんですか?」
「失礼な! 私をこんな、誰にでも使われる節操なしと一緒にしないで下さい!」
黒江さんの怒声に、背中を殴られたような衝撃を受け、竦み上がる。
「クロ、おいで。だっこしよう」
先生が言った途端、ポンッと紙袋が割れたような音がした。
黒猫が俺の足許をすり抜けてベッドに飛び乗り、先生の腕の中に納まる。
帝大のサイトでは、「触るなキケン」と書かれたQRコード付きの白いゼッケンを着けていたが、今、目の前に居る黒猫は、何も着ていない。
これ……黒江さんのにゃんこ形態だよな?
変身する瞬間、生で見たかったなぁ……
黒猫に変身した黒江さんは、琥珀色の目で俺を睨んで、フンッと鼻を鳴らした。
「あーハイハイ、クロが一番上等で忠実なのは、僕が知ってるからね~」
先生が、小さい子をあやすように優しく言って、使い魔の背中を撫でる。
黒猫は目を細めて、ゴロゴロ喉を鳴らし始めた。この姿だけを見ると、まるっきり猫にしか見えない。
「なぁ、友田君、それ何なん?」
また方言に戻った巴が、窓の方を向いたまま、少女の方を親指で指した。
「すまん、俺もさっき占い師さんから借りたばっかで詳しいこと、知らないんだ」
魔法戦士が溜息を吐いて、腕環から出てきた少女に歩み寄る。
先生は、にゃんこ形態の使い魔を撫でながら、説明を続けた。
「使い魔は魔法の主従契約が必要だけど、この手のゴーレムは家電製品みたいな物だから誰でも使えるんだよ。宝石が二種類嵌ってるから、赤いのがルビーで体力、青いのはサファイアで魔力の充電池みたいな物だと思う」
家電って……
俺は左手の腕環を見た。赤い宝石が淡い光を放っている。
電源オン? 充電中?
こんな事なら、一般ブースで古着を買っておけばよかった。




