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碩学の無能力者  作者: 髙津 央
第04章.級友宅

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23.ガチ鬱

 もう一度お礼を言って座りかけた時、視界の端で何かが揺れた。


 左側を見る。

 ふっくらしたスーツの胸元で、見覚えのある銀のペンダントが揺れていた。


 翼を広げた(ワシ)を横から見たデザイン。

 俺は弾かれたように立ち上がり、金髪の美人に向き直った。

 「それ、【急降下する鷲】ですよね?! (ともえ)君のお母さん、魔法戦士なんですか?!」


 「その人、他人だよ。僕の母さんは先月亡くなった」

 巴の淡々とした説明に、氷水を浴びせられたように一気に興奮が醒めた。

 そう言えば、自己紹介でハーフじゃないって言ってた。


 巴が暗いのって、母ちゃんが亡くなって、ガチの鬱だからなのか。

 今まで勝手に、いじめられっ子とか、色々、失礼なこと思って、悪いことしちゃったな……


 俺は、巴に向き直って頭を下げた。

 「……ごめん」

 「いいよ……言ってなかったし」

 巴は、どこか他人事(ひとごと)のような顔で言った。


 「でも、いい母ちゃんだったんだな。ウチのは家の用事全然しないし、金遣(かねづか)い荒いし『鯉澄(りずむ)』なんてバカげた名前付けるし、兄貴ばっか贔屓(ひいき)するし、居ても色々最悪なんだ。亡くなったのは残念だけど、そんなに悲しいってことは、巴の母ちゃんってスゲーいい母ちゃんなんだよ」


 何か余計な事をベラベラ喋った気がするが、巴はニュートラルな表情のまま(うなず)いた。


 あんなのでも、母親がまだ生きてる俺が、言うべきじゃなかったかも知れない。

 苦い後悔が、じわじわと胸の奥に広がる。


 でも……こう言う時、なんて声を掛ければいいんだよ……


 「政晶(まさあき)君、こっちでもすぐにお友達ができてよかったね。友田君、仲良くしてあげてね」

 「は……はい!」


 俺は思わず了承したが、巴は無言で頷いただけだった。俺が余計なこと言ったせいで、辛いことを思い出させてしまったのかも知れない。

 結局、先生の用件も、眼鏡の叔父さんと同じだったんだ。


 叔父さん二人から友達付き合いを念押しされてしまった……

 俺なんかと仲良くしたら、オカンが暴れて巴に迷惑が掛かるのに、何やってんだろ、俺。


 「友田君、【急降下する(ワシ)】が何か知ってるんだ?」

 「あ……はい。霊性の翼団の本で見ました。巴先生は【舞い降りる白鳥】ですよね」


挿絵(By みてみん)


 先生の薄い胸元では、白鳥が舞い降りる姿を(かたど)った銀のペンダントが、輝いていた。

 白鳥の片翼は、人間の腕になっている。呪いが解けて、白鳥から人に戻る姿を表した徽章(きしょう)だ。


 【急降下する鷲】は、鷲が獲物を襲うように、短い呪文で、素早く魔物を倒す魔法戦士の徽章。


挿絵(By みてみん)


 どこの国の人かわからないけど、この美人は、魔女で戦士なんだ……


 巴は、どこか遠くを見たまま、紅茶をすすっている。


 先生と血縁ってことは、巴にも魔法使いの素質があるのか……

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
【関連が強い話】
野茨の血族」 巴君のその後。
虚ろな器」 高校生になった友田君が登場。
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