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碩学の無能力者  作者: 髙津 央
第04章.級友宅

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22.巴先生

 そこは、病室だった。

 まず、消毒薬の匂いが鼻を刺激する。


 奥の窓際にベッドが置かれ、(ともえ)の叔父さんから眼鏡を取ったような人が、上体を起こして座っていた。

 ベッドは、背中側が三分の一くらい斜めに起こされ、クッションを置いて、楽に座れるようにしてある。

 柵と小さなテーブル付きで、祖父ちゃんのお見舞いの時に見た介護ベッドにそっくりだ。

 ベッドの枕側の壁際には、点滴台と病院にあるのと同じ、血圧計も置いてある。


 ドアの脇には、簡易ベッドがあり、その前には、灰色のスーツを着た金髪の女性が立っていた。凄い美人で、さっきとは別な意味で、ドキドキしてきた。


 黒江さんが、ベッドの横にある小さな丸テーブルで紅茶を()れている。

 巴の妹らしき女の子の姿は見当たらない。


 俺は、ベッドの柵に立て掛けられた長い杖と、ベッドに座っている人を見比べた。

 杖は、てっぺんにリアルな黒山羊の飾りがついている。ベッドの人は、長い髪を三つ編みにして、背中に垂らしていた。


 この人が、帝大の魔法使い……巴先生?


 思っていたより、ずっと若い。

 眼鏡の叔父さんと同じくらい……三十代前半くらいか。


 「どうぞお掛け下さい」

 黒江さんが、丸テーブルの両脇に置かれた椅子を(てのひら)で指した。


 椅子はふたつ。

 巴は先生の足許側(あしもとがわ)の椅子にさっさと腰を下ろした。


 俺は、ビビりながら枕元側の椅子に近付き、深々と頭を下げた。

 直角のお辞儀。最敬礼。顔を上げて挨拶する。

 いつの間にか、金髪の美人が、俺の横に立っていた。


 「は……初めまして。えっと、巴君の同級生の友田です。あ……あの、帝大の巴先生ですよね? 先生の本、読んで凄い尊敬してます!」

 「ありがとう。まだ中学生なのに大学生向けの本を読むなんて勉強家なんだね」


 俺の脳が一瞬、活動を停止した。

 巴先生が嬉しそうに答えた声は、さっき「どうぞ」と言った可愛い声だった。


 髪長いし、先生は女だったのか。あの名前じゃ性別わかんないし……

 いや、さっき巴は「もう一人の叔父さん」って言ってた!


 混乱する思考を取敢えず横に置いて、褒められたお礼を言う。

 「ありがとうございます。でも、やっぱりまだ難しくて半分もわかんなかったです」


 「そう。将来は大学で魔法の研究をするの?」

 「できればそうしたいんですけど、今の成績じゃどこの大学も無理で……」

 「お勉強頑張ってね。まだ中学生なんだし、これからだよ。さ、遠慮しないで座って」

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
【関連が強い話】
野茨の血族」 巴君のその後。
虚ろな器」 高校生になった友田君が登場。
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