14.守る力
爺さんは、ポケットからメモ帳とボールペンを取り出した。
「名前を書いてくれたら、レンタル契約成立だ」
「えっ? 名前だけ? 住所と電話番号は、いらないんですか?」
それと、未成年だと保護者の氏名とか、身分証明書とか、他にも色々……
「いらないよ。君は必ず、返しに来てくれるから」
爺さんの目は、俺の背後を見ていた。
他の客が来たのかと思って、右にずれながら振り向く。
誰も居ない。
みんな、この占い師のブースを素通りして行く。
「その腕環は、必ず、君の助けになってくれるよ」
「助けに……なって、くれる? それってもしかして……」
再び動悸が激しくなる。
「魔法の腕環だよ。レンタルなら、用が済んだ時に自力で儂の許に帰ってくる。君が返しに来てくれれば、半額返金するけどね」
いやもう、どんな表情すればいいのか、わからない。
マジックアイテムを千円でレンタル? 何その契約。
嬉し過ぎて、ちびりそうなんですけど。
あ……でも、千円もするのか。
姉ちゃんのプレゼント、二百円じゃ、ロクな物、買えなくなるな。
自分でも、一瞬で表情が固くなったのが、わかった。
「すみません。今、千二百円しか持ってなくって、あの……」
「お姉さんの誕生日プレゼントとしても、大いに役に立つけどね」
俺は、言葉が出てこなかった。
まだ、何も、言ってないよな?
何で、姉ちゃんが居るとか、誕生日プレゼントを買いに来たとか、わかるんだ?
占い師って、カードや水晶球がなくても、そんなハッキリ、わかるもんなの?
こんな凄い占い師が勧めるんだ。
きっと、本当に俺たちを「何か」から守ってくれる……
俺は、メモ帳とボールペンを受け取り、名前を書いた。
友田鯉澄
爺さんは、メモ帳を受け取った途端、険しい顔になった。
「あ、あの、それ、本名なんです。できれば、普通のに変えたくって、その……」
ふざけて偽名を書いたと思われて当然だ。
「失礼だけど、君の名前はいい名前じゃないねぇ。大凶と言う程、酷くはないけど……」
……そっちかよ!
「普通……普通の名前で、なるべく幸せそうな……」
占い師の爺さんは、ブツブツ言いながら、名刺の裏に何か書いて、俺に手渡した。
俺の手の中に同じ名刺が二枚。
二枚目の裏には「幸助」と書いてあった。
「もし、名前を変えるなら、この名前が大吉だ」
「あ……ありがとうございます!」
この爺さん、初対面の俺の名付け親になってくれるのか。
頑張って名前変えよう。
「友田幸助」として、生き直したい。人生を大吉でやり直したい。
「お姉さんは店に来た時に有料でね」
俺は、何度もお礼を言いながら、千円札を渡した。爺さんは、ちゃっかり宣伝しながら、腕環を俺の掌に乗せた。
ひんやりとした銀の腕環。
「使う時は、それを身に着けて命令するだけでいい。でも、外で使っちゃいけないよ。必ず家の中で使うんだ」
「はい! 家の中ですね。わかりました。ありがとうございます」
俺は何度もお礼を言って、占い師のブースを離れた。




