13.七万円
占い師の爺さんは、ペンダントをいじくりながら言葉を続ける。
「この【可能性の卵】は、別名【碩学の無能力者】とも言う。卵は空を飛べないからね。物知りだけど、何もできない……と言うような意味だ」
ガチの魔法使いからしてみれば、所詮は魔力を持たない俺たちなんて、どんなに頑張って勉強して、知識を身につけても、「無能」にしか見えないんだな。
どんなに努力しても、後天的に魔力を身につけることはできない。
元々、魔力を持ってる人なら、その力をある程度、伸ばすことはできるけど、元々ない力を伸ばすことは、できない。
ゼロにどんなに大きな数を掛けても、ゼロにしかならない。
魔法に「努力」は加算されない。足し算ではなく、掛け算の世界だ。
スタート地点で勝負が決まっている。
「だけどね、知識を基に色々な行動を起こせば、未来を変える可能性を開くことができるから、【可能性の卵】なんだよ」
俺は、余程暗い顔をしてしまったんだろう。
爺さんは、優しい声でフォローしてくれた。
何も買わずにブースの前に居座ってちゃ、邪魔だよな。
そろそろ……
「君には、これが必要みたいだね」
爺さんは、赤い絨毯の上に並べたアクセサリーの中から、腕環をひとつ拾い上げた。
木の枝が複雑に絡み合ったデザインで、赤と青の宝石が一個ずつ嵌っている。
細い糸で、小さな値札がくくりつけられていた。
七〇〇〇〇円
「えっ……えぇええええっ!? そっそんな大金、持ってないです!」
むりムリ無理!
って言うか、フリマに万単位の金、持ってくる人って、居るの?
クレジットカード、使えないよな?
あ……でも公園の北側の人たちなら、こんくらい、ポンと現金一括で買っちゃうのかな?
瀬戸川公園の北側は、古くからあるお屋敷街で、何と言うか……世界が違う。
俺が住んでるのは、公園の東側。
フリマの一般ブースは、東の住人か、北の住人か、一目でわかってしまうくらい、違う。
俺の住む町は、四十年くらい前まで、公園と同じくらい広大なお屋敷だった。
当主が亡くなった時に相続税を払えず、屋敷と庭を物納……税金を現物で国に納めた。
国は、それを競売にかけて、不動産会社が落札。
不動産会社は、土地を切り売りして、お屋敷跡は、小さな建売住宅やアパートやマンションが並ぶ、小さな町になった。
土地の切り売りには、周辺住民の反対運動が起こったらしい。
結局、そのお屋敷は町になったけど、その十年後、同じように税金が払えなくなった隣のお屋敷は、瀬戸川公園になった。
で、今は昔お屋敷だったこの公園で、フリマや区民まつりが開かれたりしている。
「千円でレンタルするよ。後で店に返しに来てくれれば、お金は半分返そう」
爺さんはそう言って、絨毯の上に積んだ名刺を一枚差し出した。
占い館 Ova‐avis
店の住所と簡単な地図が、印刷されていた。
今時珍しく、URLもメルアドも載っていない。
……千円でレンタル?
それって、俺がクソ兄貴みたいなクズだったらアウトじゃん。
七万の腕環を千円でゲットして、売り飛ばすんじゃないか、とか、普通、そういうの心配しないか?
「君は、きっと返しに来てくれる。信用貸しだよ」
俺が返したくても、オカンやクソ兄貴に見つかったら、返せなくなっちゃうんですが。




