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碩学の無能力者  作者: 髙津 央
第03章.フリマ

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13/95

13.七万円

 占い師の爺さんは、ペンダントをいじくりながら言葉を続ける。

 「この【可能性の卵】は、別名【碩学(せきがく)無能力者(むのうりょくしゃ)】とも言う。卵は空を飛べないからね。物知りだけど、何もできない……と言うような意味だ」


 ガチの魔法使いからしてみれば、所詮(しょせん)は魔力を持たない俺たちなんて、どんなに頑張って勉強して、知識を身につけても、「無能」にしか見えないんだな。


 どんなに努力しても、後天的に魔力を身につけることはできない。

 元々、魔力を持ってる人なら、その力をある程度、伸ばすことはできるけど、元々ない力を伸ばすことは、できない。


 ゼロにどんなに大きな数を掛けても、ゼロにしかならない。

 魔法に「努力」は加算されない。足し算ではなく、掛け算の世界だ。


 スタート地点で勝負が決まっている。


 「だけどね、知識を(もと)に色々な行動を起こせば、未来を変える可能性を開くことができるから、【可能性の卵】なんだよ」

 俺は、余程(よほど)暗い顔をしてしまったんだろう。

 爺さんは、優しい声でフォローしてくれた。


 何も買わずにブースの前に居座ってちゃ、邪魔だよな。

 そろそろ……


 「君には、これが必要みたいだね」

 爺さんは、赤い絨毯の上に並べたアクセサリーの中から、腕環(うでわ)をひとつ拾い上げた。

 木の枝が複雑に絡み合ったデザインで、赤と青の宝石が一個ずつ(はま)っている。

 細い糸で、小さな値札がくくりつけられていた。


 七〇〇〇〇円


 「えっ……えぇええええっ!? そっそんな大金、持ってないです!」


 むりムリ無理!

 って言うか、フリマに万単位の金、持ってくる人って、居るの?

 クレジットカード、使えないよな?

 あ……でも公園の北側の人たちなら、こんくらい、ポンと現金一括で買っちゃうのかな?


 瀬戸川公園の北側は、古くからあるお屋敷街で、何と言うか……世界が違う。

 俺が住んでるのは、公園の東側。


 フリマの一般ブースは、東の住人か、北の住人か、一目でわかってしまうくらい、違う。


 俺の住む町は、四十年くらい前まで、公園と同じくらい広大なお屋敷だった。

 当主が亡くなった時に相続税を払えず、屋敷と庭を物納(ぶつのう)……税金を現物(げんぶつ)で国に納めた。

 国は、それを競売(けいばい)にかけて、不動産会社が落札。


 不動産会社は、土地を切り売りして、お屋敷跡は、小さな建売住宅やアパートやマンションが並ぶ、小さな町になった。

 土地の切り売りには、周辺住民の反対運動が起こったらしい。


 結局、そのお屋敷は町になったけど、その十年後、同じように税金が払えなくなった隣のお屋敷は、瀬戸川公園になった。

 で、今は昔お屋敷だったこの公園で、フリマや区民まつりが開かれたりしている。


 「千円でレンタルするよ。後で店に返しに来てくれれば、お金は半分返そう」

 爺さんはそう言って、絨毯の上に積んだ名刺を一枚差し出した。


 占い館 Ova‐avis(オヴァ・アヴィス)


 店の住所と簡単な地図が、印刷されていた。

 今時珍しく、URLもメルアドも載っていない。


 ……千円でレンタル?

 それって、俺がクソ兄貴みたいなクズだったらアウトじゃん。

 七万の腕環を千円でゲットして、売り飛ばすんじゃないか、とか、普通、そういうの心配しないか?


 「君は、きっと返しに来てくれる。信用貸しだよ」


 俺が返したくても、オカンやクソ兄貴に見つかったら、返せなくなっちゃうんですが。

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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