貴方の翼が堕ちても 結
憎しみ、なんて根深いものじゃなかった。
つまらなかっただけ。
何か面白いものになりたかっただけ。
“自分”を変えられるなら、きっと、なんでも良かったんだ。
望んで。
望んで。
周りで人が消える。
騒ぎが起こる。
“誰”がやったかなんて知らない。
ただ楽しかった。
それが“俺”が求めて得た変化だったから。
人が消え。
物が壊れ。
友人が狂っていく。
それも楽しかった。
“普通”じゃないのが最高だった。
衛をヤッてやろうと思ったのも暇潰し。
松本の妙に冷めたところが気に食わなくて、からかってやるつもりだった。
そしたら衛の方が気に食わなくなった。
冷めた眼。
バカにした眼。
気に入らなくて、何度も、何度も、松本の知らないところでも滅茶苦茶にしてやったら衛は死んだ。
化け物と一つになって“俺”はそれも吸収して今までより面白い力を手に入れた。
柴田も仲間にした。
楽しかった。
人間でいるより、全然。
人を襲った。
妖は逃げたがった。
“俺”は放さなかった。
だって、それが楽しかったから。
***
「…」
流焔は目を閉じる。
心の奥、里族により一つにされた人間の魂を見る。
「………何を泣く」
泣いている声がする。
これは何だ。
激怒、憎悪、悔恨、…哀惜…?
自分を汚し死に追いやった者の死に涙するのか?
自分を売った者を許したかと思えば、そんな奴の為にも悲しむと?
「人間の感情は判らない…」
呟く妖を「衛」と呼ぶ声。
現れたのは人の母親。
「衛、これ直しておいたから持っていきなさいね」
「…」
母親は言い、ボタンを付け直したシャツを置いていく。
流焔はそれを手に取り、心の奥底へ問いかける。
「……ありがとう、と言えばいいのか」
問い掛けに、心が震えた。
…笑った?
「…いまのは笑うところなのか?」
また、笑う。
人間の感情などまったく判らないと妖は思う。
だが、気分は悪くなかった。
END