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冬の城に住まう冷酷侯爵様に溺愛されておりますが、殺される前に逃げたいと思います  作者: minori


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8.家族紹介


「おぼっちゃま、お早いお帰りでしたね」


「いや、ちょっと家に寄っただけなんだ。彼女の手当と色々と準備を頼みたい」


「準備?」


 話している中でさりげなく馬の手綱を受け取り、一緒に屋敷の方へ歩き出す。

 三人と一匹となってから歩き出してから、また催眠術をかけるタイミングを失ってしまった事に気がついた。あまりにも大きなお屋敷にびっくりしてしまったせいだ。馬から降りてすぐがチャンスだったはずなのに。


 さて、どうしようかと悩みながらエドと同じペースで歩いていく。執事とエドの話は、音としては聞こえているが、頭には入って来なかった。


「まぁ……本当によろしかったですね、おぼっちゃま。これからよろしくお願いいたします。リリー様」


「へ!? あ、はい。こちらこそ、よろしくお願いします」


 急に執事にそう話を振られ、よく分からないままに返事をする。何の話をしていたのだろうか。執事の目が少し潤んでいるようにも見える。

 パッとエドを見るも、私を愛おしそうに見つめ、微笑むだけで何の役にも立たない。目の保養になるだけだ。


 なんだか、とんでもない事態に身を置かされてしまったのではないかと不安に思いながら屋敷の入り口まで到着する。


 入り口の手前で使用人のような恰好をした男が駆け寄り、執事からウインディの手綱を受け取って、どこかへ歩いて行った。


 私もそのままついて行って、ここから逃げ出してしまいたい。そんな思いも虚しく、屋敷の扉は開いてしまった。


「おかえりなさいませ」


 扉が開くと、メイド達がずらっとこちらに向かって、皆同じ角度、同じタイミングで一斉にお辞儀をする。人が多いな、と思ったが、こんなに拾いお屋敷だとこのくらいの人数が居るのだろう。


 執事よりも少し若そうな50代くらいの女性のメイドが一番入り口の近いところにおり、すぐにそちらを見るエド。貫禄や年齢、佇まいからこの人がここのメイド長か。


「マーサ、恋人を連れてきた。捜査に巻き込まれて見た通りだ。首の傷を医者に見せ、入浴や着替え諸々任せたい。まだ仕事が終わっていないが、終わり次第すぐに戻る」


「はい、かしこまりました」


 マーサと呼ばれたメイド長は、一瞬驚いた顔をしたが、嬉しそうにそう微笑んで了承する。

 逃げ出すタイミングは失ってしまったが、まぁこの血みどろの格好ではいたくなかったし、その世話をしてもらえるなら悪くは無いか。医者は大袈裟だけど。


 そんな事を思っていると、二階の階段からコツコツと足音が聞こえた。顔を上げていたメイド達が、またざっと一斉に頭を下げる。


 どうしたんだ、と足音のした方を見ると、威厳をたっぷりとした空気を放つ身なりの良い男性が手すりに手を添えながら、こちらを睨みつけるような視線で見ている。


 ちょっと怖いな。

 そう思っていると、エドの方が組んでいた腕に少し力を入れているのがわかった。エドの方をちらりと見ると、低い声で男性が問いただすような口調で言う。


「何の騒ぎだ」


「父上」


 やっぱりこの人の父親か。

 髪の色や容姿含め、あまり似ていないなと思ったが、あの私を殺そうとした冷たく厳しい視線を思い出すと、そっくりなような気がした。


 エドが組んでいた腕をそっと外し、私の腰に手を当て、ぐっと引き寄せる。

 急な動作に少し驚いたが、それよりも驚いたのはエドの横顔だった。父親を睨みつけてはいるが、その目の中にはたしかに恐れがあった。


「恋人を連れて参りました」


 凛とした声でエドは告げた。

 父親は黙っている。

 反対もしなければ、歓迎もしない。何も言わずに、こちらを見ている。


 私はどうすれば良いのだろうか。

 この重たい空気のまま、ご挨拶して良いのかしら。エドを見ると、少し強張っていたような表情をしていたのに、私の視線に気がつくと、ふっと力を緩めて微笑んだ。

 いや、笑ってないでどうしたら良いか耳打ちでもしてよ。


 流石に私も何か話した方が良いだろうか。しかし、エドの父親に視線を戻して口を開こうとした直後に、エドの父は踵を返した。そして、静かに言い放つ。


「……好きにしなさい」


 そう言うと、エドの父はまた二階の屋敷の奥へと引っ込んでしまった。


読んで頂きましてありがとうございました。

夜20時10分頃からまた更新予定です

良ければリアクションやブクマ、評価、感想をいただけるととっても嬉しいです!励みになります!

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