6.小さく見えた光明
部下の男は剣にそっと手を合てながら、私を睨みつけている。
仕方ない。今後、この帝国の貴族からの依頼は見込めなくなるだろうが、命より大事なものはない。
私は意を決して、真剣な眼差しで部下の男を見つめた。
「私は普段は占い師をしているのですが、簡単な催眠術の出し物もできまして今回のように依頼を頂く事も多いのです。初歩的なものなので、レモンを食べさせたり、水を違う飲み物に感じさせたり位しかできませんが」
「あぁ、そういえば。昔、祭りでじいちゃんに連れられて見せ物小屋でそんなのを見たな。そうか、アレって本当にかかってたんだ。すごいな」
この金髪の男より、ずっとコイツの方が攻略しやすそうだ。一気に警戒の緩んだ様子に、内心ほくそ笑む。
しかし、ここでまた怪しまれたら面倒だ。私は悲壮感の漂う顔で、さらに訴えた。
「今回も依頼をいただき、その中で団長さんを指名されたので、そのようにしました。でも、もし違法薬物なんて恐ろしいものに関わる仕事だとしたら、引き受けておりません。私も被害者なのです、お給金もいただけそうにありませんし……あぁ、今日の寝床は星空の下かしら……」
「もういいよ、リリー。よく分かっているから」
おいおいと両手で顔を覆って泣き真似を見せると、金髪の男の方が悲しそうな顔で私の肩を抱いた。
男が完全に剣から手を離したのが目の端から見える。よし、こちらの方もクリアしたようだ。
部下の男はそっとこちらに少し歩み寄り、私に頭を下げる。
「すみません。催眠術とやらに疎くて、疑ってしまい。事情は分かりました。でも……あの、団長。その……」
しどろもどろになりながら、私達2人を交互に見ている。そして、迷いながらもおずおずと切り出した。
「お二人はなぜそんな……あの、距離が近いんでしょうか」
「彼女を愛してしまったからだ」
きっぱりと言い放つ金髪の男に私はそっと頭を抱えた。
こいつは部下の前で何を言っているんだ。
……あぁ、そうだ。私が催眠術をかけたからだった。
しかし、そんな事をつゆとも知らない部下は驚きのあまり叫びながら私達二人を震える手で指を指す。
「はい!? あの団長が!? え! なんで?」
「一目惚れだ」
「一目惚れ!?」
驚き過ぎて声が裏返っている。
私はあまりの気まずさと恥ずかしさに顔を赤くして俯かせた。
「この愛くるしいサファイアブルーの瞳、優しげな栗色の長い髪、花びらのように可憐な唇も愛らしいだろう」
「あぁ、はぁ……えっと、そうですね。とても可愛らしい方だと思いますが……」
金髪の男が私の顔にそっと手を添え、部下の男に見えるようにくるりと向けるが、十人並の容姿の女を前にして戸惑っているのが分かる。
それにも関わらず、金髪の男は惚れるなよ、と言ってまた私を胸の中に収めてギロリと部下を睨んだ。
惚れねぇよ。
もう恥ずかしくて顔が熱くなってきた。
しかし、それが愛を囁かれて照れているように見えたようで、部下はすぐに納得してくれた。
「とにかく、そういう事だ。事件と無関係な人を、しかも愛しい人を傷つけてしまったから、うちで手当をさせる」
「はぁ、まぁ……どうぞ」
好きにしてくれ。そんな呆れ切った様子で、部下の男は言う。
部下は、とりあえず持ち場に戻ると言って元いた場所へ小走りで戻っていった。
よし、2人きりになった。
これでコイツと馬車に乗ってここを脱して、二人きりになった時にでも催眠術を解いて逃げてしまえば、もうこっちのもんだ。
小さくガッツポーズをしていると、金髪の男がふわりと私に微笑んで私に腕を差し出した。
「じゃあ、行こうか。リリー」
「はい、えっと……」
「エドって呼んでくれる?」
「はい、エド」
私もにこりと微笑んで、エドの腕にそっと手を置いてエドの歩く方へ進んでいく。
第三とはいえ、騎士団の団長だ。きっと良い馬車に乗せてもらえるに違いない。そんな事をほくほくと楽しみにして歩いていると、エドが申し訳なさそうに私に微笑んだ。
「ごめん、ちょっと忙しくて。本当は君と屋敷でゆっくりしたいところなんだけど」
「いえいえ、そんな。お仕事を優先してください」
私はにやけ顔が抑えられないまま、エドに応対した。
むしろ、この男がいない方が好都合だ。
馬車で催眠術をかけて、屋敷のある街の方まで行けば行方をくらませてしまえば、逃げ切りきれるはず。
すぐ先に迫った自由に期待を膨らませていると、急にエドがぴたりと止まった。
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