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冬の城に住まう冷酷侯爵様に溺愛されておりますが、殺される前に逃げたいと思います  作者: minori


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5/28

5.変わってしまった運命


 金髪の男は優しく私の首の傷を撫で、そっとその傷に口付けを落とした。


 私は震えながら男の身体をそっと遠ざけ、男に問いかける。


「あの、私本当にこの違法薬物について関わってないの。信じてくれる?」


「もちろんさ!」


 先ほどまで恐ろしく冷徹だった男が、子どものような弾ける笑顔で返事をする。

 震えながら、私は更に質問を重ねた。


「貴方に催眠術をかけたのも、関係者の男に依頼されたからで何か裏があるなんてちっとも思わなかったの。報酬だって、たったの銀貨5枚よ。適正価格だし、疑う余地もなかったの」


「銀貨5枚!? リリーの催眠術を見られるのに? 少なくとも金貨5枚は必要だったはずさ」


 今度は少し怒ったような顔をしている。

 どうやら、催眠術はしっかりとかかっているようだ。


 私は最後に一番大事な質問をした。


「じゃあ、私を殺さない?」


 男は顔を青ざめさせ、私をぎゅうっと抱きしめる。


「当たり前じゃないか! なんでそんな酷いこと……!」


 ……よし! 催眠術はしっかりかかっているようだ。


 私は安心してようやく大きく息を吐く事が出来た。やはり私は催眠術の天才だ。命の危機も乗り越えられる事が出来た。

 

 男は私の様子に首を傾げながら、抱きしめながら頭を撫で始める。

 顔の良い男に愛でられるってのも良いものね、と思いながらそっとその手を外し、立ち上がった。

 これならもう殺される事もなく、犯罪者としてのレッテルを貼られる事もなく次の街にいけるだろう。


「良かった、誤解が解けて。じゃあ、あなたはあなたの仕事を真っ当しなさい! 私は次の街へ旅立つわ」


 男性も同じように立ち上がり、私の手をそっと握った。そして、衝撃的な言葉を言い放つ。


「何を言っているんだい? 僕と君はずっと一緒に居るんだよ?」


「……ん?」


 私が首を傾げると、男も可愛らしい笑顔で同じように首を傾げた。

 そして、優しい表情で私の首の傷にそっと触れる。


「それに、こんな傷までつけて手当をしなくちゃ。あぁ、あと着替えも必要だ。さっ行こう」


「うわぁ、ちょっと!」


 男は私を急にお姫様抱っこで持ち上げた。

 急に不安定な体制になるのにびっくりして、金髪の男にしがみつく。男はなんてことのない風に私を持ち上げながら、テントの出口に出て行こうと歩みを進める。


「いや、なんで? 誤解が解けたのに……あぁ!そうだ……」


 気が動転してとにかく助かろうと、今日貰った依頼と同じ言葉を口走ってしまった事を思い出す。

 あぁ、朝にあんな依頼を受けなきゃ良かった。頭が働かなくてとにかく何かかけなきゃと焦ってしまったのがこの結果だ。


 私ははぁとため息を吐きながら、頭を抱える。お姫様抱っこをしたままの男性は私の様子に首を傾げる。


 もう一度催眠術をかけて、ここから逃げ出そうとペンダントを握り締めて目の前に突き出そうとしたところに、運悪く話しかけられる。


「団長! 制圧完了いたしました、取り調べも開始しており進捗としては2割といったところです。なんせ、人数が多くて……あ、その女も対象ですか?」


 先ほどこの男に剣を投げた奴だ。

 この男がいる前で催眠術をかけるのは憚かれる。しかも、制圧完了という事は騎士団が取り囲んでいるという事だ。下手すれば逮捕されてしまう。


 どうしよう、と悩んでいるところ、お姫様抱っこの距離がぐっと縮まるように再度強く抱きしめられた。

 なんだ? と金髪の男を見上げると、厳しい表情で部下を睨みつけている。

 そして、憮然とした態度で部下に告げた。


「その女ではない、リリーだ」


「は?」


 何を言われたのか分からない、といった表情で部下は男を見つめる。

 そして、次には私と男を何度も交互に見つめては何が起きているか分からないといった調子で混乱していく。


 金髪の男は咳払いを一つして、部下に背を向ける。

 

「とにかく、リリーは無関係だ。傷をつけてしまったからうちで手当をさせる」


 部下は、焦った口調で男に言う。


「や、しかし団長! レモンを食べると発疹が出た後に倒れる病だと吹聴しておいたのに、団長に食べさせられたという事は彼女も重要な容疑者じゃ……!」


「彼女は依頼をされただけだ」


「いや、依頼されただけじゃ口にしないでしょう。あなたが! その女、とにかくおかしいです。団長も様子がおかしいですが、また何かおかしなものでもかけられているんじゃ……」


 まずい。大正解を言い当てられている。

 このままじゃ、いくらこの男を騙せたとしても容疑者のレッテルは貼られたままだろう。


「あの! すみません」


 金髪の男の胸板を小さく叩いて降ろすように伝えると、男はガラス細工でも扱うかのようにそっと私を地上に降ろした。


「誤解されても致し方ないと思いますが、私も指示をされただけなんです」


 部下の男は未だに私を見る目に警戒の色を弱めない。

 さて、この危機をどう乗り越えようか。


読んで頂きましてありがとうございました。

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