25.ブランケット
休暇から戻り、屋敷の皆にお土産を配った。
リゾート地でとれるフルーツから作った化粧品類やクリーム、少し変わった風味の強めのお酒、ご当地のアクセサリー等様々なものを用意した。
一応侯爵様にもお土産を買ったのだけど、いつお渡しに行こうかは悩んでいる。
好みがよく分からない、とエドワードがお土産の定番だと言われた、やたら大きくて怖い顔をした守り神だという民芸品を買おうとしたが、流石にやめておいた方がと私が酒を買ったのだ。
エドワードは休暇が終わり、侯爵邸へ帰ってくるとそのまま出勤してしまった。
ギリギリまでリゾート地での時間を確保してくれたようで、ウインディを風のように走らせて、騎士団の元へ走って行った。
私はマーサに支度の準備を手伝ってもらいながら、いつもの日常へと戻っていく。
マーサが着替えを手伝ってくれている時に、何かを思い出したように話しかけてきた。
「あ、そういえばリリー様」
「どうしたの?」
「メイド達にブランケットをかけた者がいたか尋ねてみたのですが、該当者は居ないようです」
「え、そうなの?」
以前、エドワードを看病した際にブランケットをかけてくれた人物にお礼を言っておいてとマーサに言っておいたのだ。
マーサではないかとお礼を伝えると、自分ではないと返答され、メイドの人数も多いからこちらで言っておくと言われてそのままにしてしまっていた。
マーサは少し申し訳なさそうに、話を続ける。
「一応メイド以外の屋敷の者にも聞いてみたのですが、該当者はおらず。今更になってすみません、一応ご報告をと」
「ううん、わざわざ皆に確認してくれてありがとう」
「もしかしたらエドワード様が直接かけられたのかもしれませんね」
「え? ……そうかなぁ」
マーサはこれが言いたかったようだ。
エドワードが私を慮ってやって事ではないか、と。
ニマニマと口に手を当て笑いながら言うマーサだが、あんなにぐっすりと寝ていたエドワードが? と当時の事を思い出しても、あまりしっくりとこない。
しかし、屋敷の者全員に確認したというのだから、やはりエドワードしかいないか。
そこで、屋敷にいる者の中でまだ訪ねていなさそうな方を、ふと思い当たる。
「ねぇ、侯爵様にも聞いた?」
そう言うと、マーサは少し驚いたような顔をした後に、少し気まずそうな表情を見せた。
「いえ。ただ、侯爵様はエドワード様の部屋に入られる事はないので、侯爵様である事はまずないかと……」
言い辛そうに、マーサが尻すぼみになりながら話した。
エドワードの部屋に入った事もないのか、あの父親。
エドワードと侯爵の確執の深さは計り知れないな、この家族はこのままで良いのだろうか。と、言いつつ私自身父親が存在するのかよく分からないような家なので人の家の事はとやかく言えないが。
マーサもエドワードと侯爵の確執について、思うところがあるのだろう。
悲しそうな顔をさせてしまったマーサに、私はなんてことのないような顔を取り繕って微笑んだ。
「そうなんだ……うん、わかった。ありがとう、マーサ。そうだ、侯爵様にもお土産を買ってきたの。いつならお渡しに行っても良いと思う?」
「そうですね、お仕事を終えられてお食事を召し上がった後の頃がよろしいかと思いますので、夜に。侯爵様は食事を召し上がったら早くに休まれるので、八時にはお伺いされた方がよろしいかと」
「そう、分かったわ」
マーサが少し心配そうに私を見る。
侯爵のところへ行く事を心配しているのだろう、一度廊下で道案内もしてもらったくらいだから大丈夫だと言うと、少し安心したような顔を見せた。
***
夜。エドワードは今日は帰りが遅いようで、私は早めに食事を済ませ、侯爵様の部屋へと向かった。
コンコンと扉をノックすると、侯爵様の低い声が聞こえる。
部屋に入ると、私を見て驚いた様子だった。
「何の用だね」
侯爵は低い声でぶっきらぼうな口調で言う。
私は侯爵に大きな酒瓶とグラス、少しのおつまみの入った籠を見せてお土産を渡しに来たと言った。
「私も気になっていて、良ければ一緒に少し飲みませんか」
そう誘ってみると、侯爵は黙ってテーブルの椅子を引いて私を見る。
歓迎する、という事なのだろう。
私は引かれた椅子の上に座り、酒瓶を開けてグラスに注ぐ。
侯爵も無言で反対側に座り、酒を待った。
セバスチャンは生ハムやナッツ等を用意してくれていた、この酒にはこれが合うはずだと。
グラスにたっぷりと酒を注ぎ、侯爵にすっとグラスを差し出す。
テーブルにセバスチャンの用意してくれたおつまみを広げ、グラスに私の分の酒もたっぷりと注いだ。
透明な酒だ、たしかに匂いからして少し強そうだ。
侯爵はグラスの匂いを嗅いで、少し手を止める。
「酒は飲めるのかね」
「はい、結構強い方だと思います。旅先でおすすめされたお酒なんです、侯爵様に是非と思いまして。はい、乾杯しましょ」
チン、と小さくグラスを鳴らし、私たちはぐっと酒を飲んだ。
喉にぐっとくるけど、美味しい酒だ。生ハムを口に入れると、生ハムの塩味と香りがよく合っている。
侯爵も味はお気に召したようで、ちびちびと酒を飲み続けた。
しばらく、酒を飲み進めた後、私は本題である話題を侯爵に振る。
「侯爵様、もしかして、エドワードが倒れた時に部屋にきてくださいました? 私にブランケットをかけてくだっさったのは、侯爵様じゃなかったかなと思いまして」
侯爵はグラスの手を一瞬留めて、小さくあぁと頷いた。
そして、また酒をちびちびと口に含む。
やはり、この人がブランケットをかけてくれた犯人だったみたいだ。
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