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冬の城に住まう冷酷侯爵様に溺愛されておりますが、殺される前に逃げたいと思います  作者: minori


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22/28

22.美女


 エドワードが男を睨みつけ、掴んだ腕を乱暴に振り下ろした。

 男はエドワードに握られた腕が痛かったのか、摩りながらこちらを見ている。


「申し訳ございません!」


 そこに更に後ろからエドワードと先ほどまで話をしていたグラマラスな女性が走ってきた。

 そして、女性が男が摩っている手の袖をぐっと引き上げて、少し回しながらいろいろな角度で見ている。

 特に何もなさそうな事を確認すると、安心したように女性がふぅと息を吐いた。


 女性はエドワードに向き直り、身体を近づけ耳元でこっそりと話す。


「すみません、ウエスティン卿。彼が例の……」


「あぁ、そうでしたか。こちらが……」


 ……なんか距離近いな、この二人。

 二人で納得したように話しているが、なんなのだろう。エドワードの仕事関係の方だろうか。

 何やら誤解は解けたようだが、エドワードは男を見て少々顔を顰める。


「行こう、リリー。すみません、あのお話は無かった事に……」


「そんな、ウエスティン卿!」


 美女がエドワードに手を伸ばすも、エドワードはさらりとかわし、私の手を取ってずんずんと進んでいってしまった。

 特に説明もなく、訳の分からない事態に美女を振り返り、前のエドワードを見たりと交互に見る。美女はエドワードを惜しそうに見つめていた。


 催眠術がかかっていなかったら、二人はこのまま露店巡りでもしていたのかもしれないな、なんて思いながらエドワードにずんずんと引かれ歩いて行った。


 エドワードがこちらを振り向かずにずっと歩き続ける。

 美女とはあんなに顔を近づけて親密そうに話していたくせに、こっちの顔は見もしないのかと、話しかけずにずんずん歩いていく彼が気に入らなくて、引っ張られた腕を無理やり振りほどいた。


 そうすると、ようやくエドワードは立ち止まり、こちらを見る。

 私はようやくこちらを向いたエドワードを見ると、なんだか苛立ちが前に出てきてしまう。

 私は少し尖った口調で、エドワードに問いただした。


「エド、さっきの方は?」


「えっと……リリーが気にする必要はないよ。あと……」


 エドワードは私の両肩に手を置き、身を少し屈ませて優しく諭すような口調で話しかけた。


「リリー、少しは周りに警戒心を持って。リリーは愛らしいから、すぐに危ない目に遭っちゃうよ。特に男性には気を付けること。さ、ホテルでゆっくりでもしようか」


 ぐいっと顔を近づけ、言いたいことを言うだけ言って、エドワードはまた私の手を引いて歩き出してしまった。

 先に美女とデレデレお話していたのはそっちじゃない、と不満を言ってやろうかと思ったが、別に好きでもない男とカップルのような痴話げんかをする必要もないか、と思い直す。

 とはいえ、胸の中は晴れないまま、私たちはホテルへと向かった。


***


 ホテルは白を基調としていて、とても美しく、広く、大きなものだった。

 最上階の海側の部屋は、ワンフロアとなっており、とても広い。

 海側にガラス張りのジャグジーが置かれていたり、椅子やテーブル、ベッド等の調度品も洗練されたものだった。開けたバルコニーからは海がよく見えて、ここにテーブルを設置して、食事もできるとのことだった。


 ガラス張りのお風呂は少し嫌だけど、カップルにはロマンチックな空間が演出出来て良いのだろう。

 私はバルコニーから海風に吹かれながら、ぼうっと海を見つめた。

 そこに、エドワードがそっと近づいて私の腰に手を回す。


「バルコニーで食事もできるそうだけど、砂浜にキャンドルを置いて、夕日を見ながら食事も出来るそうだよ。今日海には行っていないし、夕飯はそうしようか」


 エドワードが先ほどあった事など何も気にも留めていない様子で、いつもの通り優しくそんな事を話しかけてくる。

 

「そうね」


 少し気に入らない私は、短くそう答える。

 機嫌が悪いのを隠せなかったみたい。エドワードは少し困ったような顔をするが、ぎゅっと一度私を抱きしめて、夕食を砂浜で食べられるようにホテルに行ってくると出て行ってしまった。


 なんだか自分が自分ではないような違和感に疲れ、エドワードが居なくなった瞬間に大きくため息を吐く。

 これじゃあ本当に嫉妬しているカップルの女のようだ。

 しかし、決してそれは違う。なんだか自分が除け者にされたような、説明もされていない状態が気に食わないだけで、別にあの美女とエドワードがどうだこうだという事が気にかかっている訳ではない。絶対。


「初めての旅行なのにな……」


 本当に生まれて初めてする旅行なのに、あまり楽しくない。

 侯爵邸に居て、皆と話していた方がずっと楽しかった気がする。

 来るなんて、言わなきゃよかったな。


 そう思いながら、とぼとぼと部屋に戻り、ベッドにそのままダイブする。

 大きくて広いベッドも、やっぱり侯爵邸のベッドの方がふかふかしていて気持ちが良い気がする。

 朝が早かった事もあり、私はベッドに横になっている内に、そのまま眠ってしまっていた。


読んで頂きましてありがとうございました。

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