21.初めてのデート
ついに、この日が来てしまった。
白い砂浜。透き通った海。見た事のない原色カラーに近い花々。
開放的な数多の露店に、紐飾りやガラス玉で作られた見慣れないアクセサリー。
今までに訪れた事のないような異国の雰囲気に、目を回すほど見回した。
エドワードとの休暇が始まったのだ。
仕事が忙しくてたったの一泊二日の旅行となってしまったが、それでもエドワードは十分嬉しいようで、馬車の中でもにこにことずっと機嫌が良さそうだった。
メイド達もリゾート地のリサーチを重ねて、大きく花がたくさん描かれたワンピースのようなものを用意し、髪もそれに合うようにセットしてくれた。
なんでもこの軽くて柔らかい素材のひらひらした丈の長いワンピースを、海風で揺らしながら歩くのがリゾート地でのマナーなんだとか。
本当か? と思ったけども、実際に来たら女性は同じようなワンピースを着ている人ばかりだったから、本当だったみたい。
「雰囲気が違って、可愛いね」
私の髪を一房手に取り、そっとそれに口づける。
相変わらず、エドワードの溺愛具合は変わらない。
エドワードもリゾート地にいる今日は軽装だ。
お祭りで見た時のような平民に見えるような恰好をしている。
顔が平民には見えないので、まぁ貴族のお忍び感は拭えないが。
「本当にすごいところね、こんなところは初めてだわ」
「リリーも見た事はない? 南にある島々を参考にしたリゾート地だそうだよ」
「へぇ~、南の方は行った事がないなぁ。船で行き来するのは面倒だし」
「そっか、じゃあ二人とも初めてで楽しいね」
エドワードが嬉しそうに微笑んで、私に手を差し伸べた。
……手を繋いで歩きたい、という事なのだろうか。
戸惑い、彼の顔を見上げると、ただにこにこと微笑んでいるだけだ。
まぁ、良いか。手くらい。
私もそっと彼の手を取り、まずは露店通りを歩き始めた。
海が近い分、貝や魚、吸盤の沢山ついた生き物等、海の幸がたくさんあった。
手の込んだ侯爵邸のお料理とは違い、良い素材にシンプルな調味料で味付けされた食べ物は違った味わいでとても美味しい。そもそも、私はこういった味の方が馴染みがあるから、それはもうよく食べた。
しかし、食べ過ぎたようだ。
お腹がぎゅるぎゅると痛くなってきた、思えば出発が朝早くてゆっくりお手洗いにも行っていない事に気が付く。
「エドワード、そこの露店でちょっと見ていて。私、お手洗いに行ってくるから」
「一人で大丈夫?」
「すぐそこよ」
たかがトイレに行くだけで心配そうにされて、苦笑する。
私はエドワードを近くの露店の前に置いて、お手洗いに急いだ。
お手洗いは少し混みあっていた。
それに長いワンピースはトイレをするのも、裾を沢山持ち上げたりと結構大変で、少し遅くなってしまった。
指定していた露店にエドワードは居た。居たのだが、一人じゃない。
別に悪い事をしている訳でもないのに、私はさっと物陰に隠れた。
エドワードの隣に女性が居るのだ。
それもとんでもない美女。
長い黒髪に健康的な肌、自信の満ち溢れたぷっくりと赤い唇に、少し釣り目の大きな瞳。
それに何より、ものすごいスタイルだ。零れそうなほど大きな胸と、大きく入った足元のスリットが彼女の白い足を魅惑的に見せる。露出的なワンピースの似合う色っぽい美女。
何やら熱心にその女性の話を聞いているが、催眠術をかける前の氷のように冷たい目をしたエドワードを思い出すとあんなに愛想良く話を聞いている姿が想像できない。
お前は冬の城の次期当主じゃなかったんかい。良い女にデレデレしっちゃって。
正直とてもお似合いで、入れる雰囲気ではない。
まぁ、そもそも私のようなザ・平民女なんて催眠術でもかけない限り、目にも入らない上に、男性はああいう女性が好きなんだろう。そう思いつつ、いつエドワードの元へ戻ったら良いかと困っていた。
「気になりますか」
「ひゃあ!」
そこにすぐ後ろから男性の声で、急に話しかけられる。
あまりに驚いて転びかけそうになるところを、パッと腕を掴まれ支えられた。
「すみません。驚かせてしまって」
そこにはとても物腰の穏やかそうな若い紳士がいた。
長いグレーの髪を一つに束ねて、表情から大人しく優しそうな害のなさそうな男性だ。それに、こんなリゾート地に一人白いシャツにジャケットを着ている。この人も、ここに初めてきたようだ。
「いえいえ、支えていただいてありがとうございます」
私は小さくお礼を言う。
私の腕を取ったまま、男性は続けざまに話しかけてきた。
「あの方、あなたの恋人ですよね。先ほど一緒にいらっしゃるところを見かけまして」
「はぁ、まぁそうですね」
なんだろう、すごく圧を感じる。
目が爛々と輝き、ずいっと私に近づいた。
無害そうに見えて変な男だったか、と少し怯える。最悪催眠術でどうとでもなるか、と掴まれていない方の手で胸元のペンダントをぎゅっと握った。
男は少し興奮した様子で、ぐいっと私に顔を近づける。
そして、急にこんな事を尋ねた。
「どんなお気持ちですか?」
「……は?」
「恋人が知らない女性と一緒にいて仲睦まじそうに話していて」
やっぱり変な男だったか。
人の不幸が好きなタイプなのか、カップルの不和が楽しいのか。
とんだサイコパスの変態野郎に捕まってしまったみたいだ。
私はさっと、ペンダントを取ろうとするも、片腕を掴まれているせいで外せない事に気が付く。
仕方ない、とにかく刺激しないようにしよう。
「いや、別に……」
「こう、胸の中が燃え上がるような怒りや熱が湧いてくるような……」
何やら熱心に語りだそうとした男の腕を力強く握り制止する手のせいで、男は少々顔を顰めて話を止めた。
「失礼、私の婚約者になんの用でしょうか」
そこには南国の地には不釣り合いなほどの冷たい視線を浴びせるエドワードが居た。
読んで頂きましてありがとうございました。
良ければリアクションやブクマ、評価、感想をいただけるととっても嬉しいです!励みになります!




