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冬の城に住まう冷酷侯爵様に溺愛されておりますが、殺される前に逃げたいと思います  作者: minori


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20/28

20.休養


 エドワードが過労で倒れてから少しずつウエスティン家が変わってきた。

 

 エドワードが週に何度かは夕食の時間頃に帰宅するようになったのだ。

 その為、夕食はダイニングルームで私と二人で話をしながら食事をしている。

 メイド達は冬の城に春が戻ってきたかもしれない、ときゃあきゃあ楽し気に話していたが、春の城とはまだまだこんなものじゃないとマーサとセバスチャンが更なる発展を楽しみにしているようだ。


 その温度感が高まれば高まるほど、ここから逃げ出しにくくなるので、私としては良い変化と言い難いが、過労で倒れられるよりは罪悪感がないので良しとしている。


 ちなみに、あの看病の夜以降、やはり一度手を出されかけたが、結婚前まではお互いに清い関係で居たいという話をしたら、清廉な考え方にますますリリーを好きになったよとよくわからない理屈で了承してもらったので、そこもクリア。

 そうなると、もうここでの生活は楽園そのものだ。

 違法薬物の捜査が完了するまで、この楽園を存分に楽しもうと思っていたが、私の考え方が甘く、男女の機微というものが非常に面倒だという事をすぐに思い知ることになる。


「次の休みにはデートをしようか」


 ある日の夕食の時に、エドワードにこんな話を振られた。

 私は大きなエビで口の中をいっぱいにしたまま、一瞬何を言われたか分からないまま呆然と咀嚼する。

 ごくりと大きく飲み込み、面倒なことになったなと思いながらもにこりと微笑み返す。


「……エドに休みってあるの?」


「あるよ、そりゃあ」


 はっはっは、と大口を開けて笑うエドワード。

 デートという話題に、メイド達がひそひそと色めき立つ。

 

 最近も言っていたのだ。

 私を着飾らせてパーティーに出席させたりしたい、と。何もない日でもしたいのに断られるから、主人を着飾りたいメイドとしては物足りないと。

 良い機会が回ってきた、と数人の目が光っている。

 獲物に狙われるネズミの気持ちが分かった気がした。


 なるべく面倒は断りたい。

 私はどう断ろうか考えながら、エドワードに遠慮がちに話した。


「えっと~……やめた方が良いんじゃない?」


 メイド達の一気に息を飲み込むような声が聞こえた。

 そんな悲壮感を漂わせるような反応をしないでよ、と思いつつ、もっと悲壮感を漂わせている者が目の前にいる。


「え、なんで?」


 驚きと悲しみ。

 まさか断られるとは思っていなかったと言わんばかりの表情に、うっと胸が詰まるような思いがする。

 しかし、エドワードとどんどん仲が深まれば深まる程、ここを出る時が面倒になるのだ。

 私はもっともらしい理由をこねくりまわすことにした。


「だって、最近過労で倒れたばかりじゃない。休みがあるなら休んだ方が良いわ」


「あぁ、リリー……俺の事を考えてくれたんだね、なんて優しいんだろう」


 先ほどの表情から一転、頬を桃色に染めて嬉しそうに微笑むエドワード。

 このままいけば、家でゆっくりするコースだろう。

 あとは二人で読書でもしようといえば、適当に一日を終わらせられる。


 完璧な計画だ、と思っていたのだ。この時までは。


 私は慈悲深い微笑みを作り、エドワードに微笑みかける。

 このままデートの話は頓挫するだろう。


「でも、大丈夫。心配いらないよ」


 エドワードがにこりと笑う。雲行きが怪しくなってきた。

 私も笑顔を貼り付けたまま、尋ねる。


「……大丈夫って?」


「外へ食事をしたり、散歩や買い物をするだけだし。移動は馬車だよ。最近近くの海沿いの町でリゾート開発が推進されているらしくてね。ホテルでゆっくりするだけさ」


「へぇ……」


 リゾート地のホテル。

 メイド達が話していたあの高級リゾートの事だろうか。

 異国をイメージして作られているのも素敵だけど、白い砂浜に透き通った澄んだ海。リゾートホテルに泊まらずとも、海を見るだけで最高の体験が出来るそうな。


 正直、ちょっと行きたい。きっと私の人生で縁遠い場所。この機会を逃したら一生行けないかもしれない。

 恋人同士のお泊りデートだなんて面倒臭い事や、これからの計画が崩れてしまう事と、純粋に行きたいという気持ちが天秤の上でぐらぐらと揺れる。


「オープン前に一部貴族が招かれていてね。一応部屋も用意してもらってるんだけど」


「へぇー、そうなんだ~……」


「最上階の一等客室から見る夕焼けは絶景らしいよ」


「ふ~ん」


「料理は海でも部屋のバルコニーでも希望の場所で食べられるようになっているんだって」


「へぇ~」


「料理は元王室のシェフを雇っているらしくて、料理も絶賛で」


「ほーん……」


「あと、リリーが呼んでいるロマンス小説の作者さんの次の舞台になるらしいよ。ここのホテルが」


 天秤がぐわん、と傾く。


「……行ってみようかな」


「じゃあ、招待状に返事をしておくね!」


 エドワードが嬉しそうに返事をする。

 エドワードに尻尾がもし生えていたなら、千切れそうなくらいぶんぶんと左右に振っているのだろう。


「恋人同士でご旅行だなんてロマンチックですね」


 メイド達がそう囁くと、恋人同士と言われたエドワードは更に機嫌を良くする。

 その様子に、やはり面倒な事を引き受けてしまっただろうか、と少し動揺した。


 しかし、私の胸の中で異国の風吹く美しい海とロマンス小説の新作がその動揺を小さくしていく。

 こうして、私はエドワードのしつこいデートのお誘いを引き受けてしまったのである。


読んで頂きましてありがとうございました。

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