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冬の城に住まう冷酷侯爵様に溺愛されておりますが、殺される前に逃げたいと思います  作者: minori


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19/28

19.貞節


 エドワードは少し首を傾げながら、私を見る。


「さっき実は厨房を探している時に侯爵様に偶然会ったの。あなたの看病をよろしく頼むって言ってたわよ」


「まぁ、会って何も言わずに立ち去るような事はできないだろ」


 自嘲気味に笑うエドワードの顔に、なんと返したら良いか分からない。

 言われてみれば、たしかにそんな気もする。ただ、侯爵が不器用なだけの男性という風に見えた気もした。しかし、家族に対する見解はずっと一緒に過ごしてきた家族の意見が正だ。私がとやかく口を出せる事じゃない。


 私はついに黙り込んでしまった。

 そうしていると、急にぐっと手を引き寄せられ、ベッドの上で抱きしめられる。


「ちょっと、急に何を……!」


「話していたら、なんだか寂しくなってきちゃった。一緒に寝ようよ、リリー」


「いやいやいや、もう朝焼けも見えてきていますし!」


「でも起きるには早い時間だし、そもそも愛し合っているんだから一緒に寝るなんて普通の事だろう? そもそも、なんでリリーも俺の横に来ないんだ?」


 エドワードは愛らしく小首を傾げて、私を見つめる。

 その手はいやらしく私の背中を撫で始めた。


 しまった、最初にかけた催眠術のせいで私の純潔が危ぶまれている。


 どうしよう、と頭をこねくり回し、私はまたパッと胸元のペンダントを取り出す。

 ペンダントを少し揺らすとまた、エドワードはがくんと頭を垂れる。

 相変わらず催眠術のかかりやすい男だ。


 私は催眠術でぐっすりと眠るように暗示をかけ、エドワードは私を抱いたまま倒れるようにしてベッドにダイブした。

 私は重い腕の中を必死に抜け出し、ふぅと一息つく。

 ギロリとエドワードを睨みつけるが、素知らぬ顔ですやすやと眠りこけている。私の天才的な催眠術のおかげで。


「チッ、天使みたいな顔して結局こうかい、この色情魔が。でも、催眠術かけた状態の人にさらに催眠術かけるの初めてだったな……案外なんとかなるのね」


 はぁーと大きく息を吐きながら、椅子に座る。なんだかどっと疲れてしまった。


 そういえば、催眠術を二重にかけると副作用とか、あるのかな。

 かけていたはずの催眠術が解けてしまっていたら、どうしようか。

 

 今度はハラハラとしながら、エドワードの寝顔を見つめる。

 起きた瞬間に更にまた最初の催眠術をかければ良いか、もうこのペンダントから手は離せないな。

 私が身構えながらエドワードを見つめていると、エドワードはもぞもぞと寝返りを打ちながら何やら寝言を言い出した

 

「うーん、リリー……愛してるよぉ……」


 私の名前を呼んでいる、よし大丈夫そうだ。催眠術は解けていない。

 

 ほっと胸をなで下ろす。

 最初から催眠術を使えば、余計に色々な話をせずとも良かった。しかし、エドワードとの夜更かしの時間はまぁまぁ楽しかった。

 たった1年のかりそめの婚約期間、こんな日が1日くらいあっても良いかもしれない。


 その後催眠術を乱用し強制的に一日眠らされたせいで、すっきりと疲労が抜けたエドワードはもう大丈夫だからと言ってすぐに仕事へ出かけてしまった。

 今度は、ちゃんと休養も取るし、徹夜はしないようにすると約束をして。


 穏やかな五日間の後に、嵐のような三日間となってなんだか非常に疲れてしまった。

 エドワードを見送った後、エドワードと居た部屋に戻り、続編のロマンス小説に手を出す。

 ちょうど部屋の清掃にメイド達と鉢合わせる。

 椅子に無造作に置いておいたブランケットを折り目正しく畳み、メイドに渡した。


 素早い速さでシーツが取られ、新しいシーツをかけていく。

 部屋が綺麗になっていく様子を見て、改めてこの嵐のような三日間が幕を閉じた事を実感した。


 私はメイド達にお礼を言って、先に部屋を出る。

 看病疲れもしたし、ベッドで横になりながらこのロマンス小説の最終章を読んでいようか。


 体をぐっと伸ばして、部屋に向かおうとしたところで、ちょうどセバスチャンと出くわした。

 そういえば、セバスチャンにまだお礼を言っていなかった事を思い出す。


「あ、セバスチャン。私が寝ている時にブランケットをかけてくれたわよね、ありがとう」


 私がそう言うと、セバスチャンはきょとんとした顔をする。


「いえ……それは、私ではありませんね」


「あ、そうなの。じゃあマーサかな」


「お伝えしておきますね」


「ううん、私が直接会った時に言っておくよ」


 セバスチャンが優雅にお辞儀をして、了承した。

 そこで、ピタリと私の腕の中にある本に目を向ける。


「今からそちらの続きを?」


「うん、面白い本を持ってきてくれてありがとう。ちょっと疲れたから自室で続きを読もうと思って」


「そちらの作者の作品はまだまだあるんですよ、紅茶とお茶菓子と一緒にお持ちしますね。エドワード様の看病でお疲れでしょう、今日はゆっくりされてください」


 セバスチャンは人の良い顔でにこにことそう言う。

 ロマンス小説を読むと、なんだかエドワードと接していると変にドキドキしてしまってもう断ろうと思っていたのだけど、善意で言ってくれているし、たしかに面白過ぎて興味がある。


 少し考えたが、セバスチャンの好意に甘えることにした。


読んで頂きましてありがとうございました。

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