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冬の城に住まう冷酷侯爵様に溺愛されておりますが、殺される前に逃げたいと思います  作者: minori


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18/28

18.父


 私は祖母や母の話をした。


 祖母は誰にでも優しかった事。とても善良な人だった事。ミルクスープが美味しかった事。

 母は奔放で明るい人だったという事。祖母とは違ってちゃっかり者だった事。父親の事はなかなか話してもらえなかったから、よく知らない事。


 取り留めもなく、そんな話をして、エドワードは一緒になってよく笑った。

 ミルクスープは今度コックにリクエストしてみたい、と言っていたが、きっと貴族の口には合わないだろう。作ってもらったとしても、あの祖母の味にはならないはずだ。だって食材から違い過ぎるし。

 

 エドワードは私の身の上話を楽しそうに聞いた。

 内容というより、私がどう過ごしてきたかを知る方が楽しいようだ。

 催眠術の事はふんわり濁しながらも、私はありのまま彼に昔話をした。


「ありがとう、リリーのことがもっと知れた気がして嬉しかった」


「いえいえ、どういたしまして」


 話している内に用意された軽食も、少し量が多かったのにいつの間にやらたいらげて、お腹もいっぱいだ。

 お腹も満たされたなら、また眠くなるだろうか。

 自然と欠伸が出て、口元に手を当てる。

 エドワードもまた寝るだろうか、とチラリと見ると、先ほどの明るい顔とは打って変わって、少し寂しそうな顔で俯いていた。

 

「俺は……リリーみたく、楽しい話が出来そうになくて」


 今度は自分の番だと思ったのだろう。

 エドワードは、なんと話して良いのか分からなさそうに困っている。


 私としては、それならもう寝てしまえばとも思うのだけれども、流石にこんな顔をした「恋人(一時的)」を放って寝ようというほど、鬼ではない。


 私はそっとエドワードの手に自分の手を添えた。


「マーサからよく聞いているわ、あなたの両親がとても仲が良かった事も。その……お母様が亡くなられている事はセバスチャンからそれとなく」


 私がそう言うと、エドワードは顔を上げた。


「そう……急に聞いて驚いただろ。俺の口から先に言うべきなのに」


「そんな暇もなかったでしょ」


「それもそうか。……今から少し、聞いてくれる?」


「もちろん」


 私は椅子に座り直し、きちんと背筋を伸ばした。

 その様子にエドワードは小さく笑う。


「ウエスティン家は今冬の城って呼ばれていてね」


「それって庭園に花が咲いていないから?」


「いや、この家の雰囲気だと思う。そうか、庭園の話も聞いていたんだね。リリーは花が好き?」


「うーん、まぁそうね」

 

 花が好きかどうかなんて考えた事もなかった私は、ぼんやりとした口調で答える。

 逆に花が嫌いな人もそうそう居ないだろ、と思ったがあの花一つ咲いていない殺風景な庭園を思い出した。もしかしたら、花すらもこの家では悲しい思い出を引き起こしてしまうものだったのかもしれない。


 エドワードはどこから話して良いやら、と悩んでいる様子だった。

 初めて彼の過去を他人に話すのだろう、私はゆっくりとエドワードが話すのを待つ。


 エドワードは水差しからグラスに水を注ぎ、それを一気に飲み干すと、ようやく口を開いた。


「母は、俺を産んだから亡くなったそうなんだ。俺を産んだ後、すぐに体を崩して。健康な人だったそうだけど。だからこそ、皆突然の悲劇が受け入れきれなかったとマーサから聞いた」


 貴族の家の事はよく分からないが、比較的安全性が高いと思われていたお産だったのだろう。

 マーサのあのベル様について話すときの楽しそうな顔を思い出すと、きっとその突然の悲劇がどのように影を落としたのか少し想像が出来る気がした。


 エドワードは更に話を続ける。


「そこから、春の城から一気に冬の城と呼ばれるほど、父である侯爵も家の雰囲気も厳しく冷たい冬のようになっていったそうで。まぁ、僕は冬の城である今のウエスティン家の記憶しかないから、よく分からないんだけどさ」


 催眠術にかけられる前のエドワードを思い出す。

 彼の瞳に温度など宿っているようには全く見えなかった。初めて会った時の父親によく似ていると感じるほど、冷たく慈悲のないあの視線。

 あれはこの冬の城から生まれたものだった。


「俺は父から愛する人を奪ったんだ。父は……俺を憎んでいて。でも、後継者をおざなりにも出来ないみたいで、父とは話したことがほとんどないんだ。顔も見たくないみたいで、同じ家に居ても殆ど顔を合わせた事もない。だから、きっとリリーも父から歓迎されていないと感じる事があるかもしれないけど、それは俺のせいなんだ」


「そんな……」


「でも、今なら父の気持ちも分かる気がするな。俺も、リリーが居なくなったら同じようにしてしまうかもしれない。……ごめんね、俺の話はそんなに面白くなくて」


 エドワードは明るく笑った。

 無理をして振舞っている事など、すぐに分かる。

 

 ただ、エドワードの話から一つ納得のできない事があった。

 

「そう……なのかな」


 私がそう言うと、エドワードは私の顔を見た。


読んで頂きましてありがとうございました。

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