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冬の城に住まう冷酷侯爵様に溺愛されておりますが、殺される前に逃げたいと思います  作者: minori


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17/28

17.昔話


「ねぇ、エド。もしかして暗い部屋に一人でいるのが怖いの?」


「まさか」


 繋がれていた手がそっと外された。

 数時間ぶりに手のぬくもりが離れると、少し寂しいような気がする。

 思えば占い以外で人の手を握るだなんて、祖母が亡くなる頃以来だ。


 ……おっと、また絆されそうになってしまった。いかんいかん。

 

 私は首を横にぶんぶんっと振り、気持ちを整えた。

 そして、すくっと立ち上がる。

 

「すぐ戻ってくるわ、食べられそうなものを持って」

 

「ありがとう」


 私は足早に屋敷を歩いていく。

 しかし、食事を作っている場所に足を運んでいない為、どこにあるかわからない。


 廊下に置いてあった置き時計を見ると、時刻はすでに0時を回っている。

 さすがにこの時間に誰かを叩き起こすのもな、と思いながら彷徨い歩いていると、ちょうど曲がり廊下で人とぶつかった。


「あ、侯爵様。すみません」


 ぶつかった相手はこの家に来た時に一度だけ会ったエドの父親だった。

 今ここで会うのが侯爵だなんて、ツイてない。

 そう思っていたのに、侯爵の方から話しかけてきた。


「どうかしたのか」


「えっと、エド……エドワード様が目を覚まして、お腹が減っていそうなので何か食べ物をと思ったのですが、厨房の場所が分からなくて」


 私がそう言うと、侯爵が何か言いたげな様子で私を見つめている。

 どうかしたのだろうか、と言葉を待っていると、低い声で小さく言った。


「下だ」


「え?」


「一階の大階段を下りて右に行き、突き当りのところだ。前を通ればわかるだろう、大きな両開きの扉がある場所が厨房だ」


「あぁ、そうなんですね。ありがとうございます」


 私はマーサに教わった通りに優雅にお辞儀をして、小走りで侯爵の言われた通り大階段を目指そうとした。

 すれ違いざまに、侯爵はまた低い声で口髭の下の口をもごもごさせながら、小さく言う。


「よろしく頼む」


 あまりに小さいので何を言っているのか一瞬分からなかったが、エドワードの看病の事だろう。

 マーサの話だとベル様にメロメロのどうしようもない若造のイメージだったのだが、案外奥手な人なのかもしれない。もしくは、マーサ大絶賛のベル様がとんでもないコミュニケーション能力の保持者だったか。


 私はにっこりと笑って、また小走りで厨房に向かって走り出した。


 厨房にはコックが一人、椅子に腰かけながら居眠りをしていた。

 どうやら、マーサにエドが目を覚ましたら食事を用意する為に待機しておくよう言われていたのだとか。


 とはいえ、こんな時間からがっつりと何かを食べられるはずもなく、コックは軽食とあたたかなスープを用意してくれた。

 お持ちすると言ってくれたのだけど、ずいぶんと眠そうな顔をしていたので、このまま自分で持っていくから休むようにと伝えて部屋に戻った。


 しかし、困った。

 やはり、持ってきてもらえば良かった。

 両手でトレイを持っているから、ドアノブを開けられない。

 足を上げてドアノブをどうにかできないかと、片足を上げようとしたところでガチャリとドアが開いた。

 エドワードが開けてくれたのだ。

 

 まさか、ドアを開けてくれると思わなかった為、少し驚いた。


「よく分かったね」


「分かるよ、リリーの事なら」


 そう言うと、エドワードはにっこりと微笑んでそのままトレイを受け取ってくれた。


 ベッド近くのテーブルに置き、私は椅子に座る。

 エドワードはベッドに腰かけながら、二人で食事を食べ始めた。

 

 食べ終わって、また薬を飲ませ、横にならせる。

 横になったエドワードに掛布団をかけ、とんとんとゆっくりと布団の上から小さく叩いた。


 彼はかなり回復してきたようで、薬を飲んでもすぐに眠る事なく、私を静かに見つめていた。

 思いのほかさっさと寝ないので、とんとんの終わり時が分からないまま、なんとなく続ける。


「リリーって看病がうまいね」


 エドワードがそう話しかけてきた。


「そう?」


「うん、マーサみたいだ」


 五十代位の女性と一緒にされてもあまり嬉しくはないな、と苦笑した。

 エドワードがごめん、と小さく笑い、また訪ねてくる。


「それはリリーのお母様のやり方なの? あ、そうだ。リリーのご家族にも結婚の挨拶をしないとじゃないか。すっかり頭から抜けてたよ、どちらにいらっしゃるの?」


「えーっと、家族は皆亡くなっているの。だから挨拶する必要なんて無いよ」


 横になっていたエドワードが身を起こして、少し沈んだ顔をする。

 とんとんと叩いていた私の手をそっと取った。


「ごめん、そうだったとは……」


「気にしないで、もう十年くらい前の事だし。母は二十年近く前かな、私が六歳の頃に」


「そう……」


 エドワードはそう呟くと優しく私の手を握りながら、黙り込んでしまった。

 なんと言えば良いのか分からないのだろう。不器用な男だ。

 適当に話を変えるなり、労うなりすれば良いだけなのに。


 私はエドワードに助け舟を出すように、取り留めなく話し始めた。


「私も自然ととんとんって叩いてしまったけど、言われて思い出したわ。風邪を引いた時、よく祖母も母はもしてくれたの。祖母はとても優しい人で、母は結構奔放な人で。祖母は優しく寝るように促していたけど、母は風邪の私が遊び始めたら今日怒ったみたいに怒る人だったな」


「そうなんだ。素敵な人たちだったんだね」


「そう……なのかな」


「そうだよ、リリーを見ていれば分かる」


 そう言われると少し照れ臭く感じる。

 困ったように笑うと、エドワードはまた優しく微笑んだ。


「ねぇ、リリーの話もっと聞きたいな」


「大した話はないわよ?」


 そう前置きをして、私たちは長い夜に語り始めた。


 

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