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冬の城に住まう冷酷侯爵様に溺愛されておりますが、殺される前に逃げたいと思います  作者: minori


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16/28

16.女神様みたいに


 私は伸ばした手を引っ込めて、椅子の向きを調整し、エドワードに向き直る。


「目が覚めていたの?」


「うん、君を見てた……」


 ロマンス小説を読んだ後のせいか、ドキリとしてしまった。

 そもそも顔良し、家柄良し、はだけた胸元から見える胸板の分厚さも良しなロマンス小説から出てきたヒーローのような色男だ。私がドキドキしてしまうのも仕方がないだろう。


 私は照れ隠しにコホン、と咳払いする。

 すました顔を取り繕って、エドワードに尋ねる。


「だいぶ体は楽になりました?」


「そうだね、少し楽になってきたよ」


 心なしか、目の下の隈が多少薄くなったような気もするし、頬の色も最初の頃より血色が戻ってきている気がする。

 よかった、休養と薬が体によく効いたのだろう。


 あやうく催眠術で人を過労死させるところだった、とほっと胸をなで下ろす。

 しかし、仕事に戻ってまたこのようになって帰ってくるのも困りものだ。


 私はエドの手にそっと自分の手を重ねて、優しく諭すように話をした。


「ねぇ、エド。仕事熱心なのは良いけど、体を一番に大切にしないとだめだわ。またこんな風に倒れたら大変よ」


 エドは寝返りを打ち、私の方に横向きになり、私の手を両手で包み込んだ。


「でも、リリー。この案件を終わらせないと君と結婚ができないじゃないか」


「そんなの後になったって良いじゃない」


「リリーは俺と早く結婚したくないってこと?」


 ……面倒くせぇ男だな。

 そう思いつつも、悲しそうに目を潤ませながら言われると、ロマンス小説の余韻のせいでぐっと胸にくるものがある。セバスチャンに本のチョイスを変えてもらおう。


「あのね、そう言ってるんじゃないの。あなたが体を壊してまで得たいものじゃないって言ってるの。逆に考えてみてよ。私があなたの為に無理をして、同じように真っ青な顔をしていたらどう思う?」


「そんなのダメに決まっているじゃないか!」


 エドワードが興奮した様子で体を起こす。この勢いに驚いた。

 しかし、催眠術にかけられているとはいえ、人に心配をされるってこんな気持ちだったっけ、と少し考える。祖母も私が14の時に亡くなったから、それ以来こんな風に誰かに心配される事なんてなかった。


 先ほどの胸の高鳴りとは違う、胸がじんわりとあたたかくなる感覚に自然と笑みが零れる。

 エドワードはそんな私の顔を見て少し驚いたように目を丸くした。

 私は、そのままエドワードの肩にそっと手を当てて、また横になるように促す。


「ね、だから自分を大切にして」


 エドワードは私のその言葉を聞くと、静かに頷き、大人しくベッドの上に横になった。


 昼食の時間もとうに過ぎている。

 食欲はあるかと聞くと、無いと答えられ、眠れるかと聞くと、それはできそうと言ってまた、うとうとと目を閉じ始めた。


 また眠るか、と静かになった部屋で続編の小説に手を伸ばす。

 そこで、急にまたエドワードに声をかけられた。


「ねぇ、リリー。さっきみたいな顔をして笑って」


「え?」


「女神様みたいに綺麗だったから」


 いつも綺麗だけどね、と付け足し調子よく微笑む。

 天使のような顔をしたこの男にそう言われ、真夏の空の下に放り込まれたように顔が熱くなる。エドから見ても、私の顔は分かりやすく赤くなっているのだろう。

 エドは私の顔を見て小さく声を出して笑い、私はからかわないでっと言ってベッドを小さく叩いた。


 そして、私たちは取り留めのない話を少しして、いつの間にか二人でそのまま眠ってしまった。

 エドワードはベッドに横になり、私は椅子に座り、二人の手は握られたまま。


***


 目を覚ますと、少し体が痛い。

 月明りだけが差し込む薄暗い部屋の中でゆっくりと瞼を開ける。

 どうやら私も深く眠り込んでいたようだ。


 私の体の上にブランケットが乗っているところを見ると、セバスチャンかマーサが来てくれたのだろう。

 繋いでいた手は握られたままだった。

 

 お腹が少しすいている気がするけれど、眠気の方が強い。

 繋がれた手をそっと外して、痛くなったからだを横にして休めさせるかと椅子から立ち上がろうとすると、パシリと手を掴まれる。

 エドワードの方を見ると、薄く目を開けて私の手を掴んでいた。


「どこに行くの?」


「ごめんなさい、起こしちゃった?」


 私は座り直し、エドワードの手を握り返す。


「いや、今目が覚めただけだから」


 エドワードはゆっくり体を起こす。

 ぼんやりと寝ぼけた様子だ。よく休めたのだろう。

 私は再度、エドワードに尋ねた。


「お腹減った?」


「少し」


「じゃあ、マーサかセバスチャンに軽く食事を持ってきてもらうよう伝えてくるわ」


「あぁ……」


 肯定の意を返すも、手は握られたまま離されない。

 少し不安そうな顔をしている。

 大の男がなんていう顔をしているんだ、と思いながらも、後ろ髪を引かれるような思いで私も立ち上がれずにいる。かわいらしいな、とさえ考えてしまう。

 こんな事を考えるだなんて、やはりロマンス小説の続編は読まない方が良いかもしれない。


読んで頂きましてありがとうございました。

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