15.看病
結局、エドの目が覚めたのは翌日の朝だった。
目の下の隈が最初に見た時より多少マシに見える程度で、身体に優しい食事と睡眠。とにかく休養をするようにとの医者からの言伝を伝えても、彼はなんとベッドから起き上がろうとした。
「ちょっと! 聞いてたの、私の話!」
「あぁ、でも早く仕事を終わらせないと……」
「あのねぇ、別にあなたがいなくたっていないなりに周りの人たちだって仕事はできるし、結局無理をするとこうやって余計に休まないといけなくなって更に仕事は遅れるのよ。あと、医者の言いつけは守りなさい!」
起き上がるエドを思い切り突き飛ばし、叱り飛ばした。
エドは小さく謝ると、また目を瞑る。
私はエドが目を覚ましたので、食事の準備を始めてくれるようにとマーサ達に伝えなくてはと部屋のドアを開けるとちょうどセバスチャンと鉢合わせた。
どうやら、ドアの外で私の怒号を聞いていたようだ。
「あの……えっとね、セバスチャン」
「あぁ、なんと……」
セバスチャンが目を抑えながら震えている。
温室育ちの方々には少し刺激の強い言い方だっただろうか。
貴方達貴族と違って私たちの看病なんてこんなものなんだけど、昨日あんな風に言われた手前非常に気まずい。
とりあえず謝った方が良いかと、口を開こうとすると、その前にセバスチャンは潤んだ瞳で私を見た。
「ありがとうございます、リリー様」
「へ?」
「エドワード様はいつも無理をなさって……いえ、ここまでの事はありませんでしたが、いつも休むようにと言っても聞く事がなく。リリー様のおかげでエドワード様はきちんと休めております、ありがとうございます」
「ごめんなさい、下町の荒療治みたいな感じだけど……」
「いいえ、エドワード様を思ってこその深い愛が伝わりました」
セバスチャンはさっと白いハンカチを出して、目頭を押さえる。
いや、言う事聞かなくてちょっとイラっとしただけなんだけどな、と思いつつ、とりあえずウエスティン家での私の地位向上の為、話を合わせる事にした。
「わかってくれてありがとう。あなたが執事で本当によかったわ」
本当に本当に良かった。こんな善良な方が執事で。
セバスチャンは私の言葉に更に目頭を強く抑える。
私は慈悲深い顔を作って、エドワード様の為に体に優しいお食事を用意してもらうよう伝えると、すぐにと言って目頭を押さえたまま足早に屋敷の奥へと去って行った。
とりあえずこれで、一旦ミッションクリアだろう。
私はふぅと小さくため息を吐き、エドの隣に置いてある椅子に腰かける。
余程疲れていたようで、エドはまた眠りについていた。五日も寝ずに仕事をしていれば、そうなるだろう。
すやすやと眠りにつくエドの顔をじっと見ながら、やつれてもやっぱり良い男だなとぼんやりと眺めた。
しばらくしてセバスチャンがあたたかいスープにパン、スクランブルエッグを持ってきてくれた。
昨日私の為にと椅子の傍に置いてくれた小さな机に、それらを置く。
私が椅子を引いて、机をベッドに近づけて、エドを起こすと、エドはとろんとした瞳をしながら、ゆっくりと体を起こした。
「リリー、なんだかとてもしんどくて。食べさせてくれる?」
「……はい?」
急に子どもみたいな事を言い出して、何を言っているんだコイツは。
そう思ったのに、セバスチャンは少し慌てた様子で、あとはお若い二人でとすぐに部屋を出てしまった。
なんだかひどく誤解をされた気がするが……まぁ、しんどいと言われたらやらざるを得ないだろう。
私はまずスープをスプーンでひとすくいして、フーと熱を冷ましながらエドがだらしなく開けたままの口にそっとスープを入れた。
それを何度も繰り返し、用意された食事は完食。
医者からもらった薬も飲むと、すぐにまた眠気がやってきたようで、眠りにつく。
その後すぐにセバスチャンも気を使って、私の分の食事を持ってきてくれた。
気分転換にこの部屋を出てメイド達といつもの通り話しながら食事をしたかったけども、そんな事を言える雰囲気ではないので、そのままありがたく頂戴し、エドの寝顔を見ながら私も完食。
皿を下げる際に、更に本を二冊と紅茶とお茶菓子を持ってきてくれた。
甘ったるいロマンス小説だ、近頃の流行りらしい。
恋愛なんて、ねぇ。
職業柄あまり男女の恋愛ほど信用のならないものはないと思う私には向いていないだろう、と思ったのになかなか山あり谷ありのストーリーに夢中になった。
じっくりと読み進め、後編の二冊目に手を伸ばしたところで、エドが目を開けて、嬉しそうに私を見つめている事に気が付く。
もうお昼もとうに過ぎたころだった。
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