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冬の城に住まう冷酷侯爵様に溺愛されておりますが、殺される前に逃げたいと思います  作者: minori


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2.金髪の男


「はぁ、あんなに殴られてもあの男が良いものなのかしらね~。別に顔が良いわけでも、金持ちでもなさそうなのに。よくわかんないわぁ、男女のいろいろって」


 私はそう言いながら、さっとテントから覗くのをやめた。


 私の家は代々催眠術師だ。

 お祭りの出し物で少し才能があれば誰でも出来るような簡単な催眠術をかけて場を沸かせてみせたり、こんな風に人助けのような事をしてみたりして日銭を稼いでいる。


 腕はたしかなので、なかなかの報酬をもらえる。

 依頼は多岐にわたって、不倫中の夫の目を覚ましてほしいとか、夫との夫婦仲を改善させてほしいとか、大衆の前で自信を持って話せるようにさせて欲しいとか。貴族からの依頼も内密に多く、不安定な暮らしながらまぁまぁ良い暮らしをしているのではないかと思う。


 まぁ、この催眠術を魔術だなんて言って蔑まれたり、迫害されかけたりするので、こうやって普段は占い師のような出立でいるようになったのだが。


 祖母の代迄は”魔女”なんて呼ばれていた時期もあったそうで、なかなか苦労した私達一族は普段は占い師のような仕事をして、あるキーワードを言われると催眠術の仕事に移行したりする。


 ちなみに、占いの腕はまぁまぁってところだ。まぁ当たったかどうかなんて、報告に来る訳でもない上に旅芸人のように各地に移動していくからよくわからないのだけど。


 今日は一発目からまさか催眠術師としての仕事を依頼されるとは思わなかった、平民のように見えたけど彼女は駆け落ちでもした貴族の方だったのかもしれない。母は基本お金の取れる貴族からの依頼しか受けていなかったし、祖母の代迄は平民からも依頼を受けていたけど、もう祖母に催眠術をかけられた人はほとんど亡くなっているか、催眠術の話題なんて口にもしないだろう。


 さて、最初の案件で大分時間がかかってしまったからもう占いの仕事は終わりだ。そろそろ祭のステージへ出演する為に向かわなければ。

 片付けて向かえば、ちょうど良い頃合いだろう。


 私はささっと身支度をして、祭のステージへと向かった。ステージが終わったら、少し祭の雰囲気を楽しんで次の街へ向かう。

 今度は海が綺麗な美食の街にしようかな。


 そんな事を考えながら、鼻歌を口遊みながら出演先へと向かった。


***


 そろそろステージが開催される時間だ。

 客席には沢山の人間がいる。

 まぁ、私が催眠術をかける人間はもう決まっているのだが。


 主催者に金髪の男を指名しろと言われているのだ。

 別に仕込みの人間を入れなくても良いのだが、まぁここはただのマジシャンの端くれ程度の人間だと思わせた方が良いだろう、と素直に従っておいた。


 舞台の袖からそっと客席を眺める。

 大道芸用の大きなテントの中では薄暗くてよく分からないときょろきょろと見回していると、関係者の男性から肩を小突かれ、アイツだと顎で対象者を示唆された。


 なるほど。

 主催者が指名した訳もわかる。


 見た目の良い金髪の男だ。

 貴族のお忍びで遊びにきたのだろう。平民の格好をしていても、よく目立つ程体格にも優れていて品がある。それに、あの人がステージに上がればきっと舞台映えもしそうだ。

 

 おおかた、貴族におべっかでも使うためなのだろう。それに、舞台映えもするなら一石二鳥。


 透けて見えてきた大人の事情に内心呆れていると、関係者の男がずいっと私に体を寄せて小さく低く脅すような口調で耳元で囁いてきた。

 

「おい、本当にお前の催眠術きくんだろうな」


 その眼差しは疑いに満ちている。

 ムッとしつつも、まぁ催眠術なんてほとんど仕込みの人が多いだろうし、仕方ないかと思う。が、この下卑た顔、私という人間を疑い蔑んでいるような態度は癇に障る。

 イライラとした気持ちを落ち着かせ、すっと男の目の前でペンダントを出した。


「あなたは今からこの果物を皮ごと美味しく召し上がります。甘く芳醇なものに感じられるでしょう」


 そう催眠術をかけて、カバンからステージの小道具であるレモンを取り出す。

 男は戸惑いながらも、レモンを齧る。

 しばらく無言で咀嚼し、ごくりと飲み込んだ。


「……ははっ、こりゃすげぇや。団長の言う通りだった」


「お分かりになられましたか」


 私はパンと男の目の前で手を叩き、すぐに催眠術を解いてやった。未だに口に広がる酸味と苦味に男は苦渋の顔で悶絶している。

 ふん、ざまぁみろ。そんな気持ちでいたのだが、男の方は不敵に笑い私を見た。気持ちの悪い男だ。


「あの男が抵抗して食べなかったらどうするんだ」


「そうしたら食べるように催眠術をかければ良いだけです」


「ふーん、なるほどな。確実にやれよ」


「言われなくとも」


 そう会話を交わしていると、大きく銅鑼の音が響いた。

 いよいよ、ステージが始まるようだ。

 まずはマジシャンが場を沸かせ、次に私の番が呼ばれた。


 さて、銀貨5枚分の仕事をして、金髪の男にレモンを齧らせて帰ろうか。

 これが終われば、海の見える街で美味しいものを食べに行こう。

 

 いつものこんな生活が叶わなくなるなんて、この時は思いもしなかったのだけど。


読んで頂きましてありがとうございました。

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