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冬の城に住まう冷酷侯爵様に溺愛されておりますが、殺される前に逃げたいと思います  作者: minori


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12/28

12.計画変更



 部屋に戻るなり、ベッドにダイブして枕に顔を埋める。


 とんでもないところに来てしまった。

 敵の根城……いや、別に私は何も悪いことをしていないけど。催眠術に理解がない上に、殺そうとしていた人間を愛するように催眠術をかけてしまったのだから、もう悪い事をしていなくても取り返しがつかないのかもしれないが。


 あぁ、あの朝に顔に青痣を作った女性を見て、親切心なんて出さなければよかった。

 それがなければ、あんな催眠術をかけることもなかったのに。


 ベッドの上でごろごろと何度も寝返りを打ちながら、何度も何度も後悔をする。

 しかし、そうしたところで、この状況が好転する訳ではない。

 何か手を打たなければ。生き延びるには、ここから逃げる他ない。


 そうしていると、コンコンっと扉がノックされた。

 入ってきたのはエドワードで、騎士団服を着ている。


「リリー、気分はどうだい。大丈夫?」


 エドワードはベッドに腰かけ、寝そべる私の頭を優しく撫でる。

 騎士団服を着ていると、なかなか様になっている。精悍で逞しい騎士団長様だ。

 私を心配し、慈しむ表情は、人に躊躇なく剣を振り下ろすような人間には見えないけれど。


 エドワードは私の頭を撫でながら、申し訳なさそうに話し始めた。


「事件の後処理やこれからの事で忙しくてね。まだ、しばらく落ち着かなさそうなんだ。今日も色々と入用なものを取りに帰ったような形で。今後しばらくは、帰れない日も出てくるかもしれない」


 昨日は真夜中。今後は帰れない日まで出てくるとは、なかなかにブラックな働き方だ。


 しかし……待てよ。

 私はエドワードとの会話から一筋の光が見えてきたような気がした。


「ねぇ、エドはいつも忙しいの?」


「そう……だね、うちの第三騎士団はこういった特殊な捜査が多いんだ。貴族が関連していたり、色々と複雑で」


 なるほど、第三騎士団の「第三」というのは番手ではなく、役割の事だったのか。


「そう……大変ね。じゃあ、いつもこんなに家で落ち着く事ができないほど忙しいのか……」


「あぁっ! リリー! ごめんね、寂しい思いをさせて」


 そう言うと、エドワードは私に力強く抱きついてくる。

 急に強く抱きしめられて、むしろ息が出来ないくらいだ。


「違います違います、痛いです。離してください!」


 胸板をどんどん、と叩くとエドは叱られた子犬のような顔をして、しゅんと離れた。

 しかし、本当に良い事を聞いた。

 エドワードはほとんど家にいつかないだなんて。


 そもそも、逃げる必要なんて無いのではないだろうか。

 私の催眠術は解ける事がないし、屋敷の皆は身分差の恋に理解もある。料理もおいしい。寝床も素敵で至れり尽くせりの毎日。


 亭主元気で留守が良い、とはよく言ったもので、エドワードとほとんど接触のしない昨日のような優しく楽しい日々が続くなら、こんな生活も悪くはない。

 何より、今後違法薬物だのよく分からない危険な仕事に騙されて巻き込まれる事もないわけで……。


 考えれば考えるほど、このまま侯爵夫人なんてのも悪くはないのかもしれない。


 一人そんな事をじっくりと考え込んでいると、急にふにっと唇にあたたかく柔らかいものがあたる感覚がした。

 そこで、ようやく目の前にいるこの美しい金髪の男が急に自分に口づけをしてきたのに気が付いた。


「な、なにをしているんですか!!」


 どんっと胸板を突き飛ばすも、顔を少し離しただけで騎士団長を務めるエドワードはびくともしない。

 こいつ、私のファーストキスを奪いやがった……!

 

 怒りで顔が熱く、身体は震え始める。

 それなのに、エドワードといえば私の手を握り、うっとりとした瞳で私を見つめるだけだ。

 そして、こんなことを宣う(のたま)。


「リリー、帰ってきたら式を挙げよう」

 

「……は?」


「善は急いだほうが良い。君と早く一緒になりたいんだ」


 押し寄せる不快感。

 もともと自分を殺そうとした人間と結婚だなんて、やはり馬鹿げている。


 さっきの考えは撤回だ。

 そもそも、急にキスをしてくるような男、身勝手などうしようもない奴に決まっている。こちとら、何度どうしようもないカップルや夫婦を見てきたと思っているんだ。

 こんな男と結婚したら、きっと胡散臭い催眠術師だの占い師に縋る女たちのようになってしまう。

 そんなのは絶対に嫌だ、やはりここから絶対に逃げ出さなければ。


 エドワードは燃え上がる情熱を抑えられないまま、私の手を握り、立ち上がる。 


「そうと決まれば、すぐに式の手配をするようにマーサに……」


「待って!」


 それを凛とした声で制止する。

 エドワードはぴたりと立ち止まった。


「ごほん……エド、あなた違法薬物の捜査は良いの? そんな中途半端な状態で式を挙げるだなんて、よくないわ。仕事をきちんと終わらせてからにしましょう」


「そんな……それじゃあ、いつまでかかるか……!」


「いつぐらいになりそうなの?」


「……早ければ一年」


 一年。良いではないか。

 それまで侯爵家で贅沢三昧な平穏な日々。

 違法薬物の捜査が終わり、私への捜査が必要ないと分かれば、そのままとんずらだって出来る。


 私は口角を上げて、エドの頬に手を添えた。


読んで頂きましてありがとうございました。

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