11.ローデルト王国の処罰
ダイニングルームに案内され、席に座る。
とても広いお部屋に長いテーブルなのに、座るのは私一人。
侯爵様は、と聞くと、いつも自室で召し上がるそうで、ここでは召し上がらないそうだ。
なんか、さっき聞いていたマーサの話と侯爵様のイメージが合致しない。が、どうせ私は隙を見て逃げる予定なので、侯爵家の些末な事情等気にせずに、美味しいお料理に舌を打った。
色々とあって疲れているだろうから、と胃に優しいあたたかな食事が用意されている。
分厚いステーキ肉でもまったく構わないのだが、初手からガメついても良い印象を持たれないだろう。
一人で食べるのは少しきまずいな、と思っていると、メイドたちが静かになり過ぎないように、一人一人楽しい話を交えながら、自己紹介をしてくれた。
自分は占い師だというと、恋占いをして欲しいと楽し気にはしゃいでいて、マーサにチクリと怒られる。そんな賑やかな空気のまま楽しい食事の時間は終わった。
お腹がいっぱいになって、雲のようにふわふわなベッドに横になると、すぐに眠たくなってきた。
幸せ過ぎる。
優しくて、あたたかい家。美味しいお料理。ふかふかのベッド。
今まででした事のないような贅沢。ベッドの上で深呼吸をすると、なんだか良い香りまでする。チラリと香りの方を見ると、マーサが香を焚いてくれたようだ。
すみずみまでの幸せ。
ベッドの上で深呼吸をしている内に、そのまま夢の世界に入って行った。
***
ふかふかの軽い掛布団のはずだったのに、なんだかとても重いものが乗っているような気がする。
身動きが取れない。
窓から差し込む眩しい日差しに目を開けながら、重く感じる方に目を向ける。
そこには名のある画家が描いたのかと思うほど、美しい男が横たわっていた。私に足を絡ませ、抱きつきながら。
「ぎゃああああああああああああ」
思わず叫びながら、その男を突き飛ばすと、男はドンっとベッドから落ちる。
そして、のっそりと起き上がり、少し眠そうな目を擦りながら、私に微笑んだ。
「おはよう、リリー」
「おはようございます、エド……じゃなくて、なんでここにいるんですか!」
「仕事が終わったのが真夜中でね、君の寝顔を見てそのまま寝てしまったみたいだ」
「それは、なかなか大変でしたね。お疲れ様でした……でも、私に抱きついたりしないでください」
「なんで?」
エドがベッドにそっと座り直し、私の頬に優しく手を添える。
そして、低い声で耳元で囁いた。
「愛し合っているのに」
ぞわっと身の毛がよだつ。
確かに顔は良い。身分も良い。しかし、催眠術が解けたら私をすぐに殺すだろう奴にそんな事を言われても何も嬉しくない。
そっとエドを押し返すと、愛おしそうに頭を撫でられる。
しっかりと催眠術はかかったままのようだ、優しく愛されている。迷惑な程に。
本当に私は天才的な催眠術師だな、自分に皮肉を言っても仕方ないけど。
朝食にしよう、とエドに促され、また昨夜にいったダイニングルームへと向かった。
よく休めたか、嫌な事はなかったか。食べ物なら何が好きか。広いお屋敷ではダイニングルームまでの道のりも遠く、エドの質問攻めは大分長く、正直朝から鬱陶しかった。
昨日の朝に催眠術をかけてしまったあの夫婦の女性の方も、今頃うんざりしているのだろうか。
そんな事を考えながら、ようやくダイニングルームへ着いた。
昨日と同じように朝なので、肉等の消化に負担のかかりそうなものはなかった。
しかし、昨夜とは違って、メイドたちは控えてはいるが口を開ける事はない。
なぜだろうか、と思うも、昨日よりも比較的重めの雰囲気に指摘することはできなかった。
何か、話さなければ。
そうだ、と思い立つ。
「あの、それで……どうでした? お仕事の方は」
情報収集だ。
違法薬物の捜査さえなんとかなれば、こちらとしては逃げるタイミングを伺うだけ。
ようやく命の危機から逃れられる。自然と声は弾んでいた。
しかし、エドの方は視線を落としたまま、スープを口に運んでいく。
少し落ち込んだ様子で、静かに話を始めた。
「あぁ……実は実行犯の何名かは既に逃げてしまったみたいで、輸送中に奇襲もあったりと結構大変だったんだ。だから、捜査は続行だよ。本当は昨日で片をつけたかったんだけどね」
「へぇ……」
「でも、安心して。一人残らずぶち込むから」
爽やかな笑顔で言われるも、まったく安心できない。
つまり、この違法薬物の捜査が終わらない限りは、コイツの催眠術を解く事ができない。なぜなら、私も残らずぶち込まれてしまう可能性があるから……。
あたたかいスープを飲んでいるのにも関わらず、なんだか体が冷たく感じてきた。
冷たくなっていく体にこの空気なんて、さらに耐えられない。
しかし、話題もない。
私はひねくり回した頭で再度尋ねてみる。
「そうだ。ちなみに違法薬物が重罪って仰っていましたけど、どんな罰があるんですか?」
「聞きたい? 爽やかな君との朝には不釣り合いな程、残酷なんだけど……」
「えっと、まぁ……はい……」
「まずは冷水を何度も浴びさせて、舌を切って……」
「あ、やっぱいいです!」
手で制しながらそう言うと、エドはそう? なんて言って、涼しい顔でスープをまた口に入れる。
私は罰を受ける自分の姿を想像をしてしまうと怖くなり、先に部屋で休ませてもらう事にした。
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