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勇者が魔王(俺)に挑んだが、死んだので俺が勇者になる  作者: 蒼月蓮
第五章 勇者になれなかった魔王
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第88話  二国からの書状

 大庭園での休日から数日後。


 アレンは、いつもの執務室に戻っていた。


「…………」


 机の上には大量の書類。


「やっぱり多い……」


「魔王様。手が止まっております」


「分かってるよ、ノエル……」


 平和になっても、魔王の仕事が減るわけではない。


 むしろ聖剣同盟や北方の反乱が片付いたことで、後回しになっていた仕事が一気に押し寄せていた。


「次は?」


「こちらを」


 ノエルが一通の書状を差し出した。


 封蝋には、見覚えのある紋章。


「これ……クロード王国?」


「はい」


 さらにもう一通。


「そして、こちらがアカシアント公国からでございます」


「二つ同時?」


 アレンの表情が少しだけ真剣になる。


 ◇◇◇


 まず、クロード王国からの書状を開く。


 内容は三国自由貿易条約について。


 先代魔王の時代から続いてきた条約を、現在の三国情勢に合わせて見直したいという申し出だった。


「……なるほど」


 続いてアカシアント公国。


 こちらも内容はほぼ同じ。


「偶然?」


「おそらく、両国間ですでに話が行われているのでしょう」


「そっか」


 アレンは椅子へ深く座った。


 三国自由貿易条約。


 かつてアカシアント公国とクロード王国が戦争寸前まで進んだとき。


 先代魔王が必死に両国へ呼びかけ、仲裁した。


 その後の長い交渉によって成立したものだった。


「先代が作った条約か……」


「左様でございます」


「変えていいのかな」


 アレンがぽつりと呟く。


 ノエルは少し考えてから答えた。


「先代魔王陛下も、永遠に一字一句変えるなとは仰らないかと」


「……そうかな」


「国も時代も変わります」


 アレンは二通の書状を見る。


「なら――」


 ◇◇◇


「三国で会おう」


「と、申しますと?」


「手紙だけじゃ面倒だよ」


 アレンは立ち上がる。


「アカシアント公国とクロード王国の代表を、北方に招こう」


「三国首脳会談でございますね」


「うん」


 そして少し考える。


「あ」


「どうされました?」


「場所、ちょうどいいところがあるじゃん」


 ノエルが嫌な予感でもしたような顔をする。


「……まさか」


「大庭園!」


「やはり」


「せっかく作ったんだから使わなきゃ損でしょ?」


「魔王様は最近、そればかりでございますね」


「本当のことだもん」


 アレンは笑った。


 ◇◇◇


 しかし、すぐにその表情は変わる。


「ノエル」


「はい」


「先代は、二国が戦争しそうになったとき……怖くなかったのかな」


「怖かったと思います」


「先代、喧嘩弱かったんだよね」


「はい」


「それでも二国の間に入った」


 アレンは窓の外を見る。


 先代が築いた城下町。


 その先には、自分が新たに造った大庭園が広がっている。


「僕なら、戦いになっても止められる」


 けれど。


 先代には、その力がなかった。


 それでも話し合うことを諦めなかった。


「……やっぱり凄いな」


 アレンは小さく笑う。


「でも今度は、僕の番だ」


 先代から受け継いだ条約を。


 ただ守るだけではなく――次の時代へ繋げる。


「ノエル」


「はい」


「二国に返事を出して」


 アレンは二通の書状を机へ置いた。


「北方魔族領は――三国首脳会談を歓迎するって」


 先代が作った三国の平和。


 そして今。


 その続きを作るための会談が、始まろうとしていた。

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