第85話 大庭園、完成
それから数か月。
魔王城の眼下に広がっていた工事現場は、ついに一つの巨大な庭園へと姿を変えていた。
「…………」
アレンは魔王城のベランダから、その景色を見下ろしていた。
魔王城から真っ直ぐ伸びる大通り。
左右対称に整えられた花壇。
巨大な噴水。
遥か先まで続く大運河。
そして、その周囲には四十種族それぞれの特徴を取り入れた庭園が広がっている。
「できた……」
「はい」
隣に立つノエルが頷いた。
「大庭園、完成でございます」
◇◇◇
その日の午後。
庭園の完成式典が行われた。
ガルド、レイグ。
四十種族の子供たち。
魔王城の使用人。
建設に携わった職人たち。
そして、多くの城下町の住民が集まっていた。
「広っ!」
ガッシュは走り回っている。
「ガッシュ! 式典中ですよ!」
梟族の少年が追いかける。
「今日くらいいいだろ!」
「よくありません!」
アレンはその様子を見ながら笑った。
「楽しそうだね」
「陛下。そろそろご挨拶を」
「あ、そうだった」
◇◇◇
アレンは人々の前へ立った。
「えっと……」
大勢の視線が集まる。
「こういう挨拶、苦手なんだけど」
小さな笑い声が起こった。
「この庭は、僕だけのものじゃありません」
アレンは庭園を見渡す。
「普段は誰でも入っていいです」
「散歩してもいいし、遊んでもいい」
「四十種族のみんなも、人間も、魔族も――好きに使ってください」
そして少し笑った。
「せっかく、こんなに土地があるんだから」
「使わなきゃ損でしょ?」
今度は大きな笑い声が起こった。
◇◇◇
「ところでレン!」
式典が終わった直後。
ガッシュが駆け寄ってきた。
「風呂は!?」
「もちろん完成してるよ!」
「行こうぜ!」
「待ってました!」
ノエルが二人を見つめる。
「……式典より楽しみにされていませんか?」
「そんなことない!」
「俺は風呂の方が楽しみだった!」
「ガッシュ!」
◇◇◇
庭園の奥。
そこには巨大な浴場が建てられていた。
大理石の列柱。
庭園を一望できる露天風呂。
大浴槽。
電気風呂。
休憩室まで備えられている。
「おおおお!」
ガッシュが目を輝かせる。
「先代の風呂ほど豪華じゃないけどね」
「比較対象がおかしいんだよ」
普段は一般開放。
ただし外交や行事、魔王家が使用する日は閉鎖される。
それが、この浴場だった。
◇◇◇
夕暮れ。
アレンは大噴水の前で、一人庭園を眺めていた。
子供たちが走っている。
使用人たちが笑っている。
四十種族の者たちも、それぞれの庭を見て回っていた。
「…………」
先代が作った魔王城。
先代が作った城下町。
先代が整えた国。
自分はずっと、それを受け継いできた。
でも――。
「これだけは」
アレンは小さく笑う。
「僕が作ったんだよね」
隣へガルドがやって来た。
「ああ」
「先代みたいになれたかな」
「まだ早い」
「えぇ……」
「父上は千年生きた」
「それと比べないでよ」
ガルドは少しだけ笑った。
「だが――悪くない」
「……そっか」
アレンはもう一度、大庭園を見渡した。
先代が残した国に。
今日――。
ようやく一つ。
アレン自身が残すものが加わった。




