第83話 動き出す大庭園
数週間後。
魔王城の眼下では、大庭園の建設が本格的に始まっていた。
「すごい人数……」
アレンはベランダから工事現場を見下ろす。
建築職人。
石工。
魔導技師。
庭師。
様々な種族の職人たちが働いていた。
「これ、完成までどれくらい?」
「順調に進めば一年ほどかと」
「一年!?」
アレンは驚いた。
「もっとかかると思ってた」
「魔導具を使用いたしますので」
「便利だなぁ……」
◇◇◇
数日後。
アレンはノエルとともに建設現場を訪れていた。
「ここが中央庭園となります」
建築官が巨大な図面を広げる。
「正面には大噴水。その先に大運河を配置いたします」
「うんうん」
「左右には四十種族を象徴する庭園を――」
「あ!」
アレンが声を上げた。
「子供が遊べる場所も欲しい」
「遊び場、でございますか?」
「うん」
アレンは周囲を見渡す。
「せっかく一般開放するんだからさ」
「承知いたしました」
建築官が図面へ書き加えていく。
「それと休憩できるところ」
「はい」
「食べ物を買えるところも」
「売店ですね」
「それ!」
ノエルがアレンを見る。
「今度はご自分でお支払いくださいね」
「…………」
「魔王様?」
「分かってるよ……」
◇◇◇
「そして、こちらが浴場予定地です」
「おお!」
アレンの目が一気に輝いた。
ノエルが呆れたように見ている。
「庭園より嬉しそうですね」
「そんなことない!」
「では浴場を縮小して――」
「それは駄目!」
「やはり」
「ノエル!」
建築官が苦笑しながら説明を続ける。
「中央に大浴槽。庭園側は大きく開放し、景色を楽しめる設計にいたします」
「露天風呂も?」
「もちろんでございます」
「電気風呂は?」
「設置可能です」
「マッサージ機!」
「魔王様」
「……はい」
ノエルに止められた。
◇◇◇
その帰り道。
アレンは工事現場を振り返った。
今はまだ、土と資材ばかり。
けれど一年後。
ここには巨大な庭園が広がる。
「先代も……」
アレンが呟く。
「こんな感じだったのかな」
「と申しますと?」
「何もないところを見ながら、城下町を作ったんでしょ?」
「おそらくは」
「そっか……」
少しだけ。
先代の気持ちが分かった気がした。
完成したものを見るのも楽しい。
でも――。
何もない場所に、これから何ができるのか想像する。
それも楽しい。
「ノエル」
「はい」
「完成したら、最初の日はみんな呼ぼう」
「四十種族の皆様ですか?」
「それもだけど」
アレンは笑った。
「ガルドたちも、使用人のみんなも」
「ここを作ってくれた職人たちもね」
ノエルは少しだけ微笑んだ。
「承知いたしました」
アレンは再び歩き出す。
先代が残した国に――。
少しずつ。
アレンの時代の景色が加わり始めていた。




