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第80話 僕もなにかを残したい

 四十種族の子供たちが帰った翌日。


 アレンは魔王城の窓から、城下町を眺めていた。


 その向こうには巨大な四十族館。


 道路も、街も、あの館も。


 そして、自分が暮らしている魔王城も。


 ほとんどが先代の時代に造られたものだった。


「……すごいな」


「何がでございますか?」


 書類を整理していたノエルが振り返る。


「先代だよ」


 アレンは窓枠に頬杖をついた。


「最初は掘っ建て小屋みたいなところに住んでたんでしょ?」


「そのように記録されております」


「それが今じゃ、こんなに大きな国になってる」


 先代は強くなかった。


 争いを嫌い、喧嘩をすれば負けていたという。


 それでも政治と外交の才だけで、人々から認められていった。


 そして三国を結ぶ自由貿易条約まで残した。


「…………」


 アレンはしばらく考え込む。


 やがて、ぽつりと言った。


「僕も何か作りたいな」


「……作る?」


「うん」


 アレンは窓の外を指差した。


「庭」


「庭園でございますか?」


「ものすごく大きいやつ!」


 ノエルが瞬きをする。


「どの程度をお考えで?」


「ほんとにでっかくしたい!」


「…………」


「土地あるでしょ?」


「ございますが」


「だったら使わなきゃ損だよ」


 ノエルは小さく息を吐いた。


「先代魔王陛下も似たことを仰っておりました」


「また!?」


 ◇◇◇


「大きな噴水も欲しい」


「はい」


「長い運河も」


「はい」


「四十種族それぞれの庭も作ろうよ」


「それは面白いかと」


「あと、みんなが入れるようにしたい」


 ノエルの手が止まる。


「王家専用ではなく?」


「うん」


 アレンは笑った。


「僕一人じゃ、こんな広い庭使い切れないもん」


 城下町の人々。


 四十種族。


 子供たち。


 誰でも散歩できる場所にしたい。


「それと――」


「まだございますか?」


「お風呂!」


「…………」


「何その顔」


「やはり、でございますか」


「やはりって何!?」


「先代魔王陛下も、大規模建築には浴場を――」


「僕は違うから!」


「では浴場は中止に?」


「それは嫌」


「…………」


「なんで笑ってるの?」


「いえ」


 ノエルは口元を隠した。


「よく似ておられると思いまして」


「似てない!」


 ◇◇◇


 その日の夕方。


 アレンは城下町を見下ろしていた。


 先代が残した巨大な国。


 自分は、それを受け継いだ。


 でも。


 受け継ぐだけじゃなくていい。


「僕が作ったものも……」


 いつか。


 何百年、何千年経ったあとにも残っていたら。


 少し嬉しいかもしれない。


「よし」


 アレンは振り返った。


「ノエル!」


「はい」


「庭園、作ろう!」


「まずは予算案を作成いたしましょう」


「…………」


「魔王様?」


「またお金の話?」


「国家事業ですので」


「先代はどうしてたの?」


「当然、予算を確認されておりました」


「じゃあ勉強する……」


 こうして――。


 後世にまでその名を残すことになる、巨大な庭園計画が動き始めた。

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