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第79話 魔王と四十種族

 大浴場でひとしきり騒いだあと。


 アレンたちは、魔王の私室へ戻っていた。


「疲れたー……」


 ガッシュが大きなソファに倒れ込む。


「ガッシュ。魔王陛下の御前ですよ」


 梟族の少年が注意する。


「いいよ別に」


 アレンも隣のソファに座った。


「ほら、アレンもこう言ってる」


「貴方は遠慮というものを――」


「ねえ」


 アレンが口を挟む。


「みんなは、四十族館でずっと暮らしてるんだよね?」


「はい」


「楽しい?」


 突然の質問に、子供たちは顔を見合わせた。


 梟族の少年が答える。


「不自由はありません。食事も教育も十分に与えられております」


「勉強ばっかだけどな」


「ガッシュは勉強しなさすぎなのです」


「うるせえ」


 アレンは苦笑した。


 だが、少しして表情を曇らせる。


「……みんな」


「?」


「僕が七歳で魔王になったときに、ここへ来たんだよね」


 部屋が静かになった。


「はい」


「それって……」


 アレンは膝の上で手を握った。


「人質として、だよね」


「…………」


 誰も答えなかった。


 先代魔王の時代から続く制度。


 四十種族が反乱を起こさないよう、代表家の子供を魔王のもとへ預ける。


 本来なら、それが彼らの立場だった。


「ごめん」


 アレンが呟いた。


「陛下?」


「僕、今までちゃんと考えたことなかった」


 七歳で魔王になった。


 その時から彼らもここにいた。


 なのに八年間、ほとんど話したことすらない。


「魔王様が謝られることではありません」


 梟族の少年が静かに答えた。


「この制度は、魔王様がお作りになったものではございません」


「でも、今の魔王は僕だから」


「…………」


「それにさ」


 アレンは顔を上げた。


「親が裏切ったからって、子供まで殺すなんて変だよ」


 子供たちの表情が変わる。


「だから僕の代では、絶対にやらない」


「……反乱が起きた場合は?」


 梟族の少年が尋ねた。


「僕が現地に行く」


「はい?」


「裏切った本人をボコボコにして連れて帰る」


「…………」


「それで終わり」


 ガッシュが吹き出した。


「お前、それで済むの強すぎるだろ!」


「だって関係ない子まで殺す必要ないでしょ?」


「それは……そうだけどよ」


 梟族の少年は呆然とアレンを見る。


 先代魔王にはできなかった。


 争いを嫌い、武力に恵まれなかった先代は、反乱そのものを防ぐ仕組みを必要とした。


 しかし、今代の魔王は違う。


「だから――」


 アレンは笑った。


「四十族館も変えようかな」


「変える?」


「人質を置く場所じゃなくてさ」


 勉強して。


 他種族について知って。


 一緒に暮らして。


 いつか故郷へ戻ったとき、種族を率いるための場所。


「次の代表たちを育てる場所にしたい」


 梟族の少年が目を見開いた。


「……学院のようなものですか?」


「そう、それ!」


「今でも実質そうだけどな」


 ガッシュが言う。


「お前は授業から逃げているでしょう!」


「それは別問題!」


 また笑い声が上がった。


 アレンも笑う。


 そして思った。


 先代が残したものを守るだけじゃなくていい。


 変えた方がいいものなら。


 自分の代で変えていけばいい。


 それもきっと――。


 魔王の仕事なのだから。

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