第76話 魔王の部屋
「せっかくだし、僕の部屋に来る?」
アレンがそう言うと、ガッシュは目を丸くした。
「魔王の部屋?」
「うん」
「……入っていいのか?」
「友達なんだからいいでしょ」
「そういうもんなのか……?」
二人は魔王城の上層階へ向かった。
◇◇◇
「まだ着かないのか?」
「もう少し」
「この城、広すぎだろ……」
長い廊下と階段を進み、ようやく最上階へ到着する。
その先にあったのは――巨大な黄金色の扉。
「ここ」
「…………」
ガッシュは扉を見上げる。
「これ、扉?」
「扉だけど?」
「でかすぎるだろ!」
アレンが扉を開ける。
その向こうには、大理石と金で彩られた巨大な空間が広がっていた。
寝室。
居間。
書斎。
衣装室。
いくつもの部屋が奥へ続いている。
「…………」
「ガッシュ?」
「これ全部?」
「僕の部屋」
「部屋じゃねえよ!」
四十族館で暮らすガッシュですら、思わず叫んだ。
「俺の住んでるところも相当でかいけど……これはおかしいだろ」
「そうかな?」
「そうだよ!」
◇◇◇
「外も見る?」
「まだあんの?」
アレンがガラス扉を開ける。
冷たい北方の風が入り込んできた。
広大なベランダ。
その一角には――。
「……プール?」
「うん」
「最上階のベランダに?」
「うん」
「その隣は?」
「お風呂」
「…………」
ガッシュは額を押さえた。
「レン」
「アレンだよ」
「まだ慣れねえんだよ!」
さらにガッシュが露天風呂を見る。
「これも一人で使うのか?」
「基本は」
「無駄にでけえ……」
「でも、こっちは小さい方だよ?」
「……は?」
嫌な予感がした。
「大きいお風呂、見る?」
「これよりデカいのかよ……」
◇◇◇
そして――。
大浴場。
「…………は?」
ガッシュの口が開いた。
金と大理石で造られた巨大な浴殿。
中央には噴水。
浴槽はもはやプール並み。
天井には先代魔王の功績を描いた壮大な絵画が広がっている。
そして両側。
丸みを帯びた巨大な防魔ガラスの向こうには、満天の星空。
淡いオーロラが夜空を流れていた。
「……すげえ」
さすがのガッシュも、しばらく言葉を失った。
「先代が作ったんだって」
「これを?」
「うん。星とオーロラを見ながら入りたかったらしいよ」
「……金かかってそう」
「精金貨五百枚くらい」
「ごひゃ――」
ガッシュが固まる。
「……お前、それがどれくらいの金額か分かってる?」
「分かんない」
「昨日から何も成長してねえ!」
そのとき。
ガッシュは浴場の奥を見た。
巨大な先代魔王の像。
そして――。
その口から大量のお湯が流れている。
「…………」
「どうしたの?」
「なんで先代の口から湯が出てんだ?」
「本人がそう作らせたらしいよ」
「なんで!?」
「知らない」
アレンは笑った。
「電気風呂もあるよ」
「まだあるの!?」
「マッサージ機も」
「…………」
ガッシュは再び大浴場を見渡した。
そして、ぽつり。
「……ここ、みんな連れてきたいな」
「みんな?」
「四十族館のやつら」
「ああ」
アレンはあっさり頷いた。
「いいよ」
「……いいの?」
「うん。ノエルにあとで話しとくから」
「お前、こういう時だけ決断早いな……」
「みんなで入った方が楽しいでしょ?」
ガッシュは少し笑った。
「……そうだな」
八年間。
魔王と四十種族の子供たちは、すぐ近くで暮らしていた。
それでも、その間には大きな壁があった。
だが――。
その壁が少しずつ、なくなろうとしていた。




