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第75話 僕が魔王アレンだ

 城下町から魔王城へ続く道。


 アレンとガッシュは並んで歩いていた。


「なあ、レン」


「ん?」


「本当に魔王城に行くのか?」


「うん」


「勝手に入ったら捕まらない?」


「大丈夫だよ」


「……お前の父ちゃん、そんな偉いのか?」


「まあ……うん」


 アレンは苦笑する。


 これから全部話す。


 そう決めたはずなのに、やっぱり緊張していた。


 ◇◇◇


 やがて二人は巨大な正門へ辿り着く。


 門の両脇には魔王軍の兵士たちが立っていた。


 ガッシュが足を止める。


「レン。やっぱ無理だって」


「大丈夫」


「いや、兵士いるじゃん!」


 だが。


 アレンが近づいた瞬間――。


 兵士たちは一斉に道を開けた。


「……え?」


 誰一人、アレンを止めない。


 それどころか深々と頭を下げている。


「…………レン?」


「行こ」


「いやいやいや!」


 ガッシュは混乱しながら後を追った。


 ◇◇◇


 城内へ入る。


 巨大な大理石の柱。


 高い天井。


 金の装飾。


 何人もの使用人とすれ違うが、やはり誰もアレンを止めない。


「…………」


 ガッシュの表情がどんどん険しくなる。


「レン」


「何?」


「お前、何者?」


 アレンは立ち止まった。


「……もう少しだけ待って」


 二人はさらに城の奥へ進む。


 そして、人の少ない部屋へ入った。


 アレンは扉を閉める。


「ガッシュ」


「お、おう」


「今から見せるけど……」


 アレンは俯いた。


「怖がらないでね」


「何をだよ」


 アレンが変装用の魔導具へ触れる。


 淡い光が身体を包んだ。


 黒かった髪が――白へ。


 隠されていた翼がゆっくりと広がる。


 そして脚も、本来の異形の姿へ戻っていった。


「…………」


 ガッシュは口を開けたまま固まった。


「レン……?」


「うん」


「その姿……」


 アレンは翼を小さく畳む。


「これが本当の僕」


 そして。


 少し迷ってから告げた。


「名前も、レンじゃない」


「え?」


「アレン」


 ガッシュの目が大きくなる。


「……アレン?」


「うん」


「まさか……」


 アレンは頷いた。


「僕が――魔王アレンだ」


「…………」


 沈黙。


「…………」


「ガッシュ?」


「…………」


「なんか言ってよ」


 ガッシュは震える指でアレンを指した。


「お、お前が!?」


「うん」


「魔王!?」


「うん」


「じゃあ父ちゃんが魔王城で働いてるって!」


「嘘」


「魔王様に会ったことあるって!」


「僕のこと」


「家が魔王城の近くだって!」


「……ここが家」


「全部お前じゃねえか!!」


「ご、ごめん!」


 ガッシュは頭を抱えた。


「意味分かんねえよ!」


「だからごめんって!」


 しばらくして。


 ガッシュはアレンの姿をじっと見る。


 白髪。


 翼。


 そして、異形の脚。


「……なあ」


「何?」


「その足」


「うん」


「触っていい?」


「…………え?」


 アレンが目を丸くする。


「怖くないの?」


「なんで?」


「だって……こんな姿だし」


 ガッシュは首を傾げた。


「俺だってリザードマンだぞ?」


「……あ」


「鱗あるし、尻尾もある」


「そっか」


「で、触っていい?」


「いいよ」


 ガッシュはしゃがみ込み、アレンの脚へ恐る恐る触れた。


「おお……」


「どう?」


「硬い」


「感想それ?」


「爪すげえな!」


 アレンは思わず笑った。


 怖がられなかった。


 逃げられなかった。


 魔王だと知っても。


 本当の姿を見せても。


 目の前にいるのは――。


 昨日までと同じガッシュだった。


「ガッシュ」


「ん?」


「これからも……友達でいてくれる?」


「当たり前だろ」


 即答だった。


「ただし!」


「え?」


「今度から嘘つくなよ!」


「……うん」


 アレンは嬉しそうに笑った。


「約束する」


 そして少し考えてから――。


「じゃあさ」


「ん?」


「友達として、僕の家を案内するよ」


「ここ全部、お前ん家だろ!?」


「うん」


「規模がおかしいんだよ!」


 ガッシュの声が、巨大な魔王城に響いた。

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