第74話 レンの秘密
夕方。
城下町の広場。
「はぁ……」
レン――アレンは、ベンチへ座り込んでいた。
「どうした?」
隣では、リザードマン族のガッシュが菓子を食べている。
「疲れた」
「買い物しただけだろ」
「初めてだったんだよ」
「十五歳で?」
「十五歳で」
「……変な奴」
「また言った」
アレンも菓子を一口食べる。
自分で銅貨を出して。
自分で買ったもの。
ただそれだけなのに。
妙に嬉しかった。
◇◇◇
「そういや。」
ガッシュが聞く。
「レンって、明日も来る?」
「来たい」
「来たい?」
「……たぶん来る」
「なんだそれ」
アレンは少し困った。
明日の予定。
会議。
書類。
貴族との面会。
ノエルが何と言うか。
「家の手伝いとかあるんだよ」
「お前ん家大変だな」
「うん……」
「父ちゃん、魔王城で偉い仕事してるんだろ?」
「……まあ」
また嘘をついた。
アレンは少しだけ俯いた。
「ガッシュ」
「ん?」
「もしさ」
「うん」
「僕が。」
少し間を置く。
「君に嘘ついてたら、怒る?」
「内容による」
「……そっか」
「なんだよ急に」
「なんでもない」
アレンは笑った。
でも。
胸の奥が少しだけ痛かった。
◇◇◇
帰り道。
ガッシュと二人で歩く。
「レン」
「何?」
「お前さ。」
「うん」
「魔王城行ったことあるんだよな?」
「あるよ」
「いいなー」
「ガッシュはないの?」
「あるにはある」
「え?」
今度はアレンが驚いた。
「なんで?」
「……まあ。」
ガッシュは目を逸らす。
「ちょっとな」
「?」
「俺にも色々あるんだよ」
「ふーん」
お互い。
少しずつ。
何かを隠している。
だが。
アレンはそれ以上聞かなかった。
◇◇◇
魔王城。
「ただいま」
「お帰りなさいませ、魔王様」
ノエルが出迎える。
アレンは魔導具を外す。
黒髪が白髪へ戻り。
漆黒の翼が広がる。
「ノエル」
「はい?」
「僕。」
少し黙る。
「友達に嘘ついてる」
「……」
「父親が魔王城で働いてるとか。」
「魔王様と会ったことあるとか」
「全部。」
「僕自身のことなのに」
「……そうでございますね」
「このままって。」
「良くないよね」
ノエルはすぐには答えなかった。
「魔王様は。」
「どうされたいのですか?」
「……」
アレンは窓の外を見る。
「本当の僕を。」
「見せたい」
白い髪。
翼。
異形の鳥のような脚。
「それで。」
「ガッシュが離れていったら?」
「……怖い」
素直な言葉だった。
「でも。」
「ずっと騙す方が。」
「もっと嫌だ」
◇◇◇
翌日。
アレンは再びレンの姿で城下町へ向かった。
「レン!」
ガッシュが手を上げる。
「遅いぞ!」
「ごめん!」
アレンは走っていく。
そして。
ガッシュの前で足を止めた。
「ねえ。」
「何?」
「今日さ。」
「ちょっと来てほしいところがある」
「どこ?」
アレンは遠くを指差した。
巨大な岩山。
その頂上。
北方魔族領を見下ろす――魔王城。
「……あそこ」
「…………」
ガッシュが固まる。
「魔王城?」
「うん」
「なんで?」
「話したいことがあるから」
アレンは少しだけ緊張しながら笑った。
「僕の。」
「本当のこと」
ガッシュは何も知らない。
父親が魔王城で働いているという話も。
レンという少年の正体も。
だが。
今日。
その秘密を――。
アレンは友達へ打ち明けるつもりだった。




