↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
71/100

第71話 僕は遊びたい

 北方魔族領での反乱から数日。


 魔王城には、ようやく平穏が戻り始めていた。


 聖剣同盟。


 反乱。


 裁判。


 復旧。


 人間王国との和平。


 積み重なっていた問題も、一つずつ片付いている。


 だが――。


「……終わった」


 深夜。


 アレンは執務机へ突っ伏した。


「終わったぁ……」


「お疲れ様でございました」


 ノエルが空になった紅茶のカップを片付ける。


「もう仕事ない?」


「本日分は」


「明日は?」


「ございます」


「聞かなきゃよかった……」


 アレンは机に頬をつけたまま、大きくため息を吐いた。


 ◇◇◇


 しばらくして。


 アレンは窓の外を眺めた。


 遥か下には、魔王城の城下町。


 もう夜だというのに。


 酒場から笑い声が聞こえる。


 広場では、何人かの少年たちが楽しそうに話していた。


「……いいな」


「何がでございますか?」


「あの子たち」


 ノエルも窓を見る。


「僕と同じくらいかな」


「おそらく」


「……」


 アレンは十五歳。


 しかし。


 七歳で魔王となってから。


 周囲にいるのは大人ばかりだった。


 ノエル。


 ガルド。


 レイグ。


 貴族。


 文官。


 兵士。


 同じ年頃の友達など。


 ほとんどいない。


「ノエル」


「はい」


「僕にも。」


 アレンは窓の外を見たまま呟いた。


「同じ年くらいの子と遊びたいな」


「……」


 ノエルが振り返る。


 そして。


 アレンも振り返った。


「ノエル」


「はい」


「俺は遊びたい」


「…………」


「なんで黙るの?」


「いえ」


 ノエルは少しだけ笑った。


「ようやく。」


「十五歳らしいことを仰ったと思いまして」


「僕、ずっと十五歳なんだけど」


「存じております」


「その言い方なんか嫌だ」


 ◇◇◇


「では。」


「城下町へ遊びに行かれますか?」


「うん!」


 アレンが立ち上がる。


 だが。


 すぐに止まった。


「……このまま?」


 白髪。


 翼。


 異形の鳥のような脚。


 何より。


 北方魔族領でアレンの顔を知らない者は少ない。


 この姿で街へ行けば――。


『魔王様!』


 で終わる。


「それじゃ友達になれないよ」


「では護衛を――」


「それも駄目」


「しかし」


「魔王として遊びたいんじゃないんだ」


 アレンは少し考え。


 笑った。


「普通の十五歳として。」


「遊んでみたい」


 ◇◇◇


 翌日。


 魔王城の一室。


「これでどう?」


 魔法具の力がアレンの身体を包む。


 白髪は黒髪へ。


 翼は消え。


 異形の脚も普通の人間の脚へ変わった。


 どこにでもいそうな十五歳の少年。


 ノエルが確認する。


「お名前はいかがなさいますか?」


「名前?」


「アレンと名乗れば、すぐに疑われます」


「じゃあ……」


 アレンは少し考えた。


「レン」


「レン様?」


「様は禁止!」


「……レン」


「うん!」


 アレンは満足そうに頷いた。


「今日から僕は。」


「普通の少年、レン!」


「本日だけでございます」


「分かってるよ」


 ◇◇◇


 城下町。


 アレン――いや。


 レンは一人で歩いていた。


「……すごい」


 いつも見ている街なのに。


 魔王として歩く時とは、まるで違う。


 誰も頭を下げない。


 誰も道を開けない。


 誰も「魔王様」と呼ばない。


「これが普通……」


 少し嬉しかった。


 その時。


「おい!」


「ん?」


 広場から声が飛んでくる。


 同年代くらいの少年が数人。


「お前、見ない顔だな」


「う、うん」


「どこに住んでんの?」


 来た。


 アレンは少し緊張しながら答える。


「僕の住んでるところね。」


「魔王城の近くだよ」


「えっ、あの辺?」


「うん」


「じゃあ親は何してるんだ?」


「……」


 アレンは一瞬固まった。


「お父さんが。」


「魔王アレン様のところで働いてるよ」


「マジで!?」


「すげえ!」


「魔王様に会ったことある!?」


「……あるよ」


「どんな人!?」


「えっと……」


 アレンは困った。


「よく寝る」


「魔王様が!?」


「あと朝が弱い」


「なんでそんなこと知ってんだよ!」


「お、お父さんから聞いた!」


 危ない。


 ◇◇◇


 少年の一人が笑った。


「なあ、レン!」


「何?」


「俺たち今から遊ぶけど。」


「お前も来る?」


「……!」


 アレンの顔が明るくなる。


「いいの?」


「もちろん!」


「行く!」


 その瞬間。


 アレンは魔王でも。


 勇者でもなかった。


 ただの少年――レン。


 七歳で魔王になってから八年。


 十五歳になったアレンは。


 初めて。


 自分と同じ年頃の少年たちと遊ぶことになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。